話数単位で選ぶ、2023年TVアニメ10選

今年観たアニメの中で特に心に残った回を振り返った。
選出は毎年していたけど企画に参加するのは7年ぶり。集計は例年通りaninadoさんが行ってくださるようです。ありがとうございます。

■「話数単位で選ぶ、2023年TVアニメ10選」ルール
・2023年1月1日~12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。
・1作品につき上限1話。
・順位は付けない。

どこをどう読んでどう感じたかを記録するための覚書なのであらすじの書き起こしが無駄に多い。いつものことだししょうがないね。
それではさっそくやっていきましょう。好きなものを好きなだけ好きと言おう!


オタク


①お兄ちゃんはおしまい! 第3話「まひろと未知との遭遇

ある日突然、男の子から女の子に!? “女の子の生活”は苦難の連続…!?

無職転生』で鳴らしたスタジオバインドが送るTSコメディ。監督は『ぱすてるメモリーズ』のED映像で世界を沸かせた藤井慎吾氏。原作のさらっとした絵柄から色々な意味で盛ったキャラデザについては賛否が分かれていたけどおれはとってもイイと思ったよ。動画・色彩・美術・撮影が噛み合ったハイクオリティーなアニメとなっていた。アニメはエロいに越したことはない。
本作の主題はTSの他に、兄と妹のロールの反転がある。一服盛られてみはりより年下の少女(妹)に変身したまひろと、女性として先輩(姉)のみはりがきょうだいの関係を再構築する。
はじめてだらけの女子の生活に日々困惑しきりのまひろだけど、兄のロールから解放されて生きるのが楽になったようでもある。では代わりに姉になったみはりは? みはりだって未熟な少女だけど?
今話は子どものきょうだいの、年長者側の負担に焦点を当てる。
この回ではみはりの中学時代からの友人・かえでが登場する。家庭的で面倒見がよく、遊び慣れたギャルでもあるかえで。料理にメイクに外出にとまひろの面倒を見てきたみはりだが、こと姉役としてはかえでのほうが数段上手のように映る。

グルメアニメ顔負けの調理動画もキャラ表現に一役買っている。

まひろはみはりに対して「かえでを見習うように~」とふざけて言う。Bパートのお姉ちゃんご飯まだ~発言といい、妹が板についてきた……というより、妹の立場に甘えているのが端々から見て取れる。
その後、みはりは映画館で薄着だったせいか風邪をひいてしまう。妹を連れ出して遊ぶという慣れない姉ムーブで風邪をひいたと言ってもいい。みはりはさほど遊び慣れていない。水着を着るのも数年ぶりだし。かえでは映画館でちゃんと上着を羽織ったりと描写が細かい。
後述のクッキーといい、みはりの姉ムーブは友人のかえでをお手本にした模倣・背伸びだったのかも。

まひろ「何がお姉ちゃんだ。みはりはお前の妹だろう!」

かつてまひろを潰した兄のロールが今度はまひろを奮起させる。ロールは時に重荷となるが、時には背中を押す力にもなる。7年前『アンジュ・ヴィエルジュ』を観てからこういうドラマに弱くなってしまった……。
まひろ謹製のお粥を前に号泣するみはりにもグッときた。姉としてまひろの成長が嬉しく、妹としてまひろの思いやりが嬉しい。入り混じった複雑な感情を表現するきゃりさんの演技が光る。
みはりは病み上がりにかえでから教わった――かえでが実妹に作ってあげていた――レシピでクッキーを焼く。妹役からまた姉役へ。けどそこには何の憂いもない。
みはりにとっても年長者役をこなすのは背伸びなのかもしれない。しかし当のみはりは、決してその役目を嫌がってはいないのだ。
まひろと仲良しに戻れた今が、世話を焼くこのひとときが愛しいから。

みはり「きょうだいの立場は逆だけど、できるならもうしばらく、このまま」

兄妹という関係の形が姉妹に変わった今となっても、なお変わらないもの、取り戻したものを髪留めのカットに籠めて〆。
みはりが髪を整える冒頭に回帰していて収まりが良い。化粧するようになった今も、中心にはまひろにもらった髪留めがある。女体化/高校デビューで姿が一変したまひろ/かえでとの対比。あるいはふたりとみはりの間の変わらない関係性の強調。
別個の原作エピソードを合わせてひとつのテーマの話とする。『ごちうさBLOOM』を彷彿とさせる再配置には舌を巻いた。当初の目的であったまひろの社会復帰云々よりも、現状の居心地の良さを重視した改変も一貫性がある(原作の〆は「社会復帰はまだ先かなあ……」と前者を強調する)。いささかウェットな雰囲気なのは好みが分かれるか。このへんもBLOOMっぽい。

TSという題材の醍醐味と言える身体と心の変化をリッチな画と繊細な脚本が受け止め、活写した名作だった。学校に通い始めてまひろの世界が広がっていった後も、みはりとの時間を蔑ろにせず都度フォーカスする構成も偉い。
変わったまひろと学内で広がっていく交友関係を描いてから、家でかえでたちと3人で遊んで終わる11話も好き。JKのかえで、飛び級したみはり、中身がお兄のまひろという、境遇も性格も異なる少女たちのメイク遊びを通して、立場に依らない純粋な「着飾る楽しさ」を抽出できていた。


②老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます 第3話「ミツハ、演じる!」

どうにかこうにかやりくりしなくちゃいけない日々に 乾杯を……

『のうきん』に始まり『ポーション』に至るFUNAニメ―ション*1三部作の第二走者。妙に思想の強い作風と口が達者な女主人公、そして彼女らを取り巻く人々の温かみが魅力の三作だが、本作は楽しさとエグみのバランスがちょうどいい塩梅に仕上がっていた。9話までは……。
そんなファンキーで愉快な本作、今話は主人公のミツハ殿が貴族の乗っている馬車を爆竹で足止めするところから始まる。ガチの危険行為やめーや。つーかお前の家族も事故で亡くなっただろ忘れたんか!!
自分たちの馬車がミツハ殿を轢いてしまったと思い謝る伯爵一家。一方でミツハ殿は彼らを善良そうな人たちだと見極め、取り入るために口から出任せをペラペラペラペラペラペラとのたまう。成功するたびにいちいち任天堂っぽいSEが鳴って楽しい。徳は低い。
次回以降ミツハ殿は王都に出て雑貨屋を営むのだけれど、そうなる前の序盤の彼女にはある種の危うさ・捨て鉢さがある。

ミツハ「今からこの国で平民として暮らす健気な少女・ミツハを演じる! いや、なりきる!」

伯爵家と食卓を囲んだ後、素性について訊かれるミツハ殿。相も変わらず後継者問題だの母の形見だのと嘘を並べ、一家から援助を受けるためにお涙ちょうだいの一幕を演じる。伯爵夫人は亡くなった母に似ていると言ったのも演技だ。この時点では。
ミツハ殿への追及がひと段落し、話はただの茶飲み話に。一家の人々も貴族らしからぬひょうきんな一面を見せ始め、ミツハ殿からもだんだん態度の固さや演技っぽさが取れていく。ごく自然にゆるい雰囲気に移行しているのが地味ながらも巧み。

ミツハ「やだ~お父さんもお母さんも~。……あ」

この台詞には本当にやられた。緩急の効いた不意打ちだった。
そもそも彼女は家族を失い、受験に落ち、崖から落ちた少女だ。事あるごとに兄の言葉を思い出す寂しい女の子でもある。1話から続く無法なムーブで忘れかけていたミツハ殿の傷口が、嘘八百の中の真実として改めて強調される。

ただのコメディだった兄貴パートがこの局面で大きな意味を持つ。

伯爵家との交流で生まれた楽しい時間も涙も本物で。そういう意味ではただ騙して取り入った形とも言いきれない。後の話では伯爵がミツハ殿の嘘を察するシーンもある。彼女は大人の優しさの下で楽しく生きる子どものように映る。金貨8万枚というどこか漠然とした目標設定も、子どもならではの視野の狭さの表れじゃないかなとおれは思う。本当に欲しいもの――人とのつながりを既に得ていることに気付くのはあと少し先のお話だ。これから出会う人々が順繰りに流れるOP映像が好きすぎる。
したたかなくせに計算が甘く足元をすくわれそうになったり、底なしの邪悪かと思えば少女らしいか弱い一面を見せたり。ロクでもなさとかわいげが入り混じった憎みきれないキャラ造形。奔放でツッコミどころ満載のおちゃらけたストーリーもさながら、それを牽引するミツハ殿のタレント性が本作最大の魅力だった。

……いや、冗談抜きにこれは円盤買おうかな~と思ってたんですよ。9話で〆ていたら『冰剣』『江戸前エルフ』に比肩するトップアニメだった。10話で姫巫女が出陣してから全部おかしくなっちゃったんだ。なまじ一貫性のある話だから目を背けるわけにもいかんし。
みんなで飯食って騒いで生きることが何より大事だと理解できたから、その危機とあらば身を挺するし財も手放すし、殺しにも……うん、頭ではわかるよ? わかるけどね?
まあ『ポーション』以後に見返すとかわいいもんです。ベルはやりますよ。


③冰剣の魔術師が世界を統べる 第7話「世界最強の魔術師である少女は、魔術学院に潜入する」

違うよ、最強は冰剣だ。

今年を統べた監督・たかたまさひろ氏が手がけた学園異能バトルアニメ。ラノベアニメというジャンルが生み落とした最新の伝説からは、アニメならではの遊び心ある仕掛けが光った7話を選出。
お約束を踏襲しつつひねるアイデア性が持ち味の本作、今回は女体化した主人公・リリィーとアリアーヌの出会いから始まる。釘宮理恵さんのボイスも相まって尊く麗しいリリィー。数秒後に見た目そのままに声だけ榎木くんに戻るのはズルだろ。
そんなトリッキーな導入や自称妹の登場はさて置き、今話の軸に据えられているのは仲間の存在の大きさである。貴族の在り方と劣等感に囚われているアメリアを引き合いに、ひと足先にその地点を通過したアルバートの成長が描かれる。

レイ「君が求めている答えは自分で見つけるしかない」(5話)

リディア「もし君が変わりたいと願うのならば友人を頼れ。あいつを頼ってやってくれ」(今話)

リディアがアメリアにかけた言葉は、レイからアルバートへの言葉の続きだ。
6話でブートキャンプへの参加を促されなかったアルバート。彼が特訓を課されなかったのは、彼には彼の友人が――自分を強くしてくれる仲間がいるからで。

一見取り巻きのような子たちもアルバートの大切な友人で。
捨てキャラを出さない作風が物語の魅力にもつながっている。

アメリアとアリアーヌの応援団をコメディっぽく描いてから、その流れで手に汗握って応援するアルバートの友人たちを写し取る。メリハリの効いた戦闘シーンやサンシャイン池崎もいいけどこの客席の描写こそが試合を通して抜群に良かった。こういう地味なシーンがあることがアニメでは一番大事なんです。
敗北したアルバートが見上げる何のしがらみもない青い空は、次の回でアメリアが勝利した先で辿り着く青空でもある。心のままに最後まで食い下がったアルバートの健闘に涙……したもつかの間、キャロルがステージに上がってEDを歌い始める。
衝撃と興奮が冷めやらぬうちに映像は水着のシーンへ。尺の都合でカットされたと思われた水着回がED中に始まる。ウソだろ?

放送時の監督のツイート。リアルタイムで情報戦を繰り広げるんじゃないよ。
普段からサビで下着が流れているから水着も不自然ではない。悪魔的な発想である。アホなポロリもあるし非の打ちどころなし!
水着回って要はヒロインの水着のお披露目が目的なわけで、尺の圧縮も兼ねてEDに挿入しちゃうのはクレバーな一手なんよね。思いついても実践する人はそういないと思うけど、やってしまうのが天才アニメーション。
シームレス次回予告のラウドでヘイラーなドライブ感も堪らなかった。深夜2時前の数分間に泣いたり笑ったり叫んだりしたおかげで神経系がバグって半醒半睡で冰剣の夢見た。

作品全体の構造と魅力は放送中↑に書いた通り。


④お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件 第7話「天使様との約束」

俺と天使様の、奇妙なお隣付き合いが始まった。
アマネクンアマネクンアマネクンアマネクン
はあ…真昼に駄目人間にされてる。
アマネクンの…ばかっ。

同棲もの大好き制作会社・project No.9が放つ限界ラブコメディ。中盤以降はひたすらアァオ!!!!!アァオ!!!!!叫びながら視聴していたね。名実ともに納得のこのラノ5冠受賞&2期決定だ。調子こいたNo.9くんはこの冬無事に滅びたわけですが。
ここ10年観た中でもっとも糖度の高いラブコメアニメからは、CM回収のカタルシスが気持ち良すぎた7話を選出。
今話のテーマはありのままの姿の肯定とそういられる場の存在。親と揉めて周の住むマンションに家出してきた赤澤は好例だろう。家庭以外の居場所があるAパートでの彼の姿を前振りに、今の真昼の在りようと居場所についてBパートで踏みこんでいく。
いくら努力しても両親に顧みられなかった家庭環境と、“天使様”という外面にしか興味を持たれない学校生活。少なくとも後者は自分で仕向けた結果だとも真昼は語る。
誰かに自分を見てほしい。けど、こんな自分を見てほしくはない。
孤独感と卑屈さの板挟みで苦しんでいる真昼に対し、周はどこまでも丁寧で優しい。台詞や声色はもちろん、所作ひとつにも気が配られているのがわかる。ここは自分から行く、ここは待つといった状況判断が的確すぎる。ウブなくせに変なところで気遣いが巧いんだよなこの萌えボーイ……。
周から向けられた“天使様”ではない素の自分への肯定を受け取り、真昼は周の胸にもたれかかる。
本心を吐露して甘えられる、強がらずに涙を流せる場所を発見する。

真昼「全身でつかまえておいてください」

ンンッ・・・。天使様の顔だけは絶対に崩れないんだよねこのアニメ。

で、少し経ったら真昼が恥ずかしがっているのがこれまたイイんですよ。親しい人に心を許して無防備になれた証でもあるので。ぬいぐるみを抱いて寝てるのがバレたAパートの反復でもある。
ラストは桜並木の道を手をつないで歩くふたりの会話で〆。家か学校にいることがほとんどな本作では珍しいシチュ。人の目に触れる場所ではあるけど人間関係のしがらみはない、家以上学校未満の空間で真昼は周を背後から抱きしめる。こんなの、好きにならないほうがおかしいだろ・・・。
ここぞとばかりに特殊ED『愛唄』が流れてきたのにも痺れた。次の回ですぐ『小さな恋のうた』に戻ったのは残念だったけど、最終話でも結ばれていないことを思うと納得感はある。今話は序盤の山場にして、ゴールまでの中間地点なのだろう。
しかしCMで散々聞かされた「全身で~」と「こんなの~」がここまで高火力とは思わなんだ。それも同時に出すとは恐れ入った。もう全身でつかまえておいてくださいってなんだよwとか笑えないからね。

思えば今年は何かとCMの力を実感する1年だった。お付き合いのネタバレに始まり結婚報告&ラブコメ坊主*2に至る『おとなりに銀河』、早く風邪のせいにしろ!と言い続けた末に最終話ラストシーンで叶う『彼女が公爵邸に行った理由』。雨続きだったバンドリ!天気予報が10話でやっと晴れた『MyGO!!!!!』もアツかった。
CMも視聴体験の一部なのだ。早くイニャミニャミラーシカ*3でぶちアガりたいね。


異世界召喚は二度目です 第3話「イカを揚げるのは二度目です」

その剣、その魔力、そしてイカリング

『ろうきん』に続きANiMAZiNG!!!枠から2本目の選出となる。平均打点はかなり高いけど何かしら尖った個性があって万人受けしづらいアニメが集う枠と化しているANiMAZiNG!!!。本作も例に漏れず終盤の展開は好き嫌いが分かれる。おれは最後まで大好きだったよ。
3話は主人公であるセツの昔の仲間・リヴァイアがメインの回。ゴジラの声で鳴く海神との再会を祝い、セツはイカを揚げる。開始3分でサブタイ回収してこれから何するの? とヘラヘラしてたらこの後もずっとイカリングで話回してて参っちゃったね。
クラーケンを討伐したセツたちは地元の漁村で歓迎される……けど、もてなされるのは主にリヴァイア。セツは屋台でイカリング揚げてる。
人間と味覚の異なるリヴァイアはほぼ常に生食を好む。さっき食べたイカリングはもちろん、供された寿司もいまいちな様子(当たり前のように和食を出す異世界ファンタジー、素晴らしい……)。
宴の後に生魚を食べてご満悦なリヴァイアがかわいい。

視線や顔・手の動きといった細かいしぐさに血が通っていて。
所謂リッチな画とは違うけどセンスの良い映像になっている。

セツとの約束を守ろうとする魔王に自身を重ねたリヴァイアは、魔王が政略結婚に巻きこまれるのを阻止するべくセツと城に向かう。
ここ、時系列的には
①出陣前の状況確認(魔王を取り巻く問題をメンバーで共有)
②出陣前の作戦会議(城までセツの魔力を温存したい)
③出陣(リヴァイアがセツの前に出る)
④戦闘(リヴァイアのバトルシーン)
となるはずのシーンを、①→③→②→④に順序を入れ替え、出陣を前倒ししていたのが良かった。説明の間延びを防いでテンポを上げ、劇伴もすっと切り替える。直後のひと息ついての会話も襲い来る魔物を倒して打ち切る。
爽快な視聴感を生む工夫が短い尺の中に詰まっている。

リヴァイア「あんたのイカフライ、生より美味しいわよ!」

セツと過ごしてから初めてこの海の、世界の美しさに気付いた。
セツとの約束を守るためではなく、今は自分の意志で世界を守りたい。
リヴァイアの変化の象徴としてイカリングを持ち出す脚本、天才すぎる。実際のところ、イカリングが彼女の口に合ったとは考えづらい。それでも彼女は美味しいと伝えたのだ。セツがくれた食べ物を。陸に上がらなければ知る由もなかった、平和な世界が生んだ味を。
林道を駆ける勢いのある映像に合わせて語るのも◎。しかししっとりしたシーンでもいちいちゴジラの声を挟むのはやめてほしい。

冗談みたいなサブタイの回が最高だったときの敗北感なんだよな。
馬車というロケーションを活かした6話もユニークで魅力的だった。一方で、他の話数はこれらに比べてややフックに欠けていた。異世界召喚という題材に対して良くも悪くも真剣すぎた。
人を道具のように扱う(異世界人を召喚し手駒とする・非人道的な人体実験を繰り返す)シビアな異世界情勢をベースに、敵陣営にも一分の大義を持たせる手つきは好ましかった。改造人間の悲哀も沁みたしメルアとアリゼの悲劇はずーんときた。おネエと獣人はたぶんマイノリティーの生き方の話をしていた。誇りを持って生きること、大事に想える人がいることの喜び。


⑥転生貴族の異世界冒険録〜自重を知らない神々の使徒〜 第9話「修行」

僕、自分のことをついついやりすぎちゃう転生貴族だと思っていたけど、僕のやりすぎなんてまだまだだったのかもしれません……。

Q.今年一番ヤバすぎるスピードで走り続けてたアニメは?
A.

1話の時点で格の違いを見せつけていた転生ものコメディ。監督は2022夏クールの奇跡『シュート!Goal to the Future』の中村憲由氏。過剰演出と天丼ギャグと異常なまでのハイテンポを武器に1クールノンストップで暴れる春の嵐のようなアニメだった。テンプレアバンからの貴族走りOP、脳のギアが上がるぜ。内田彩さんがOPを歌うアニメは名作らしいね。
そんな“根性”キマってる本作からは修行回の9話を選出。みんなを守るために戦う主人公・カインもまた守られていることを描く。
カインの前世を知る創造神・ユウヤに邪神を倒す使命を押しつけられ、カインはレベリングのため孤島(精神と時の部屋機能付き!)にひとり置き去りにされる。アニメが始まって以来初の苦戦を実に数ヶ月も強いられ、憔悴した彼は道に倒れている仔フェンリルを手にかけようとし、止まる。

カイン「僕には、守るべきものがある!」

誰かを守りたいという想いをカインは転生前から持っている。前世で彼は見知らぬ他人を庇って亡くなり、転生したのだ。後にユウヤから告げられる両親の死の真実、そして自身のルーツを通して、押しつけられた使命は能動的な意志に変化する。
一方、カインの帰りを信じて待つことを決めたテレスとシルクは、彼の好物であるクッキーの作り方をシルヴィアから教わる。カインがみんなのために修行するように、ふたりも彼のために修行する。シンプルな二文字サブタイ「修行」がダブルミーニングでハマっている。

ドラン「しかし、俺たちよりも強くなる気がするんだ」
ユウヤ「そりゃ当たり前だ。あいつは俺たちより守ってるものがデカいからな。そして、みんなに守られているからな」

カインは邪神を倒す力をつけ、テレスたちを守ろうとしている。
テレスたちはカインが帰ってきたとき温かく迎えられるように、自分なりにできることを探して、彼の心を守ろうとしている。
規模も手段も違うけどやっていることは実質的におんなじだ。両者は互いが守られ、心安らげる居場所――「家」であろうとしている。

ユウヤの家で飲んだ転生前の世界の飲み物であるコーヒー。ドランの家でご馳走になった久方ぶりのきちんとした料理。そして自分の家でテレスたちが焼いた不揃いな手作りクッキー。今話では食を通じてカインの心情を浮かびあがらせている。

修行を終えて屋敷に帰還したカインはクッキーを泣きながら食べる。今この世界で、近しい人が自分を想って作ったクッキーだ。ダバダバでモグモグなのもしゃーない。「おかえり」「ただいま」もじんとくる。家だからこその挨拶。
からのCパートでいつもの正座丸ワイプオチ、神。カインの主観で5年が過ぎても元の関係でいられる証左のよう。ひとりだけ世代が上がっちゃうのはやっぱり少しだけ寂しいからさ。

デフォルトで倍速じみている壮絶なスピード感を誇る1話、テレスとシルクが萌え萌えでダブル婚約な3話も捨てがたかった。本作の持ち味が十全に発揮されたのは左記の話数だろう。けど、この9話で本筋もビシっと引き締まったと感じられたので。力不足に前世に両親の死、と物語に奥行きが出た。この直後に漣蒼士もクッキー食ってオワったのも思い出深い。
邪神アーロンを勢いで倒しきれた最終話は拍子抜けだけど、その分Bパートでヤバすぎる平常運転ができたのでヨシ!


江戸前エルフ 第12話「これが私のご祭神」

東京都中央区、月島。江戸時代より400年以上の歴史を刻む高耳神社。祀られたるその御神体は、異世界から召喚され、すっかりひきこもったエルフでした。

東京は月島を舞台にした日常系ゆったり下町コメディ。あれこれ盛られた多様な要素が無駄なく端正にまとまっており、今年のアニメの中でもトップクラスの完成度を誇っていた。終わりが26時を越えるキンヨルの先のご褒美でもあった。バディゴルマジデス江戸前エルフのアニメリレー、最高だったよな?
さて、本作の魅力は相反する要素のコントラストにあると以前↓書いた。

この最終話で対置されている要素は非日常(ハレ)と日常(ケ)である。前者はAパートに、後者はBパートにそれぞれ割り振られている。特にBパには唸らされるものがあったけどまずAの話から。
弓射の結果によってその年の豊漁を占う神事・弓耳祭。街の期待を一身に背負い、小糸はエルダの持つ的に弓を射る。ピリっとした船上の空気に主演ふたりの演技が馴染んでいる。根本的に出来が良いんよなこのアニメ。締めるべきところを締められている。
エルダは小糸が外した矢を追いかけて川へと落下してしまう。溺れかけている彼女の手には強引に的中させた矢と的が。努力で占いを成功させたふたりは氏子に祝福される。ここで描かれたのは天運に依らない、人の営みに宿る幸せだ。
そしてBパートは、ハレとケを裏返したうえで同じテーマを語る。
日が変わってなんでもない平日、エルダは不運に見舞われ続ける。エルダが挙げる不運の中にただの不注意が混じってて可笑しい。『式守さん』の和泉くんを思い出すね。
エルダは縁起物の鯛中鯛を求め、夕食に鯛をリクエストする。一方で小柚子は鯛は時期がよくないと答え、代わりに鯵を提案。意外にもエルダはこれを快諾する。

小糸「鯵中の鯵だよね……」
小柚子「お姉ちゃん!」

古くより日本では鯛はハレの日の、鯵はケの日の食事である。
鯵中鯵でも嬉しそうなエルダは運試しにおみくじを引く。しっかり凶を引き当てたエルダは小糸たちからラッキーアイテム(?)を借り、二回もおみくじを引き直し、とうとう最後に大吉を当てる。

浮かれポンチ。

特筆すべきはBパートの状況の日常性の高さだろう。
1クールアニメはしばしば非日常のイベントに話数を費やす。正月、バレンタイン、水着、お泊り、ハロウィン、学校行事etc……本筋とイベントをこなすだけで尺が埋まることも珍しくない。
しかしこのBパはそうした非日常性(「〇〇回」と呼べる要素)を完全に排除している。季節イベもなければ神事もない。他のエルフたちも遊びに来ない。ただ、ちょっとツイてないな~とエルダが感じてるだけのなんでもない日。たぶん実際には運気だって良くも悪くもないのだと思う。

なんにも特別ではないケの日にわちゃわちゃ騒いで浮かれポンチになる。そんな3人を写すこのBは、日常における幸福のありかを非常に的確に示している。
祭りが終わった後も小糸たちの楽しい日常は続いていく。日常系と呼ばれるジャンルにおいてベストに近い〆方だろう。


⑧英雄教室 第4話「ローズウッド学園の訓練」

ねえ、待ってよ トモダチになろう 握手だ Another Self...

川口敬一郎監督には今年も大変お世話になりました。
同氏の『スパイ教室』と双璧をなす今年の2大教室アニメ。主要なキャラたちが背負う重い設定としっかり向き合いながらも、終始明るいタッチで学園生活を描いた快作だった。キレのいいバトルと気の抜けたコメディ、魅力あるキャラに徳の高いシナリオと、エンタメアニメに欲しい要素も完備している。あと萌えとえっちな。
そんなゴキゲンな本作からはみんなで友達になれる喜びと、彼ら彼女らの幼さを大事に扱っていた4話を選出。
学園にやってきたベビードラゴン・クーは寂しがりの甘えんぼ。しかし竜種の特性上、強者しか友達と認められない。自分ひとりではクーの孤独を癒すに足りないと知ったブレイドは、学園生徒100名がクーを倒すための戦いの場を設ける。
というわけでAパートは丸々クーちゃんとのバトルが描かれる。陣形を組んで時間を稼ぎ、落とし穴を掘って動きを封じる。個人の力ではなく、全員の闘気を束ねた一撃で仕留める。徹底して頭数を活かした集団戦を描いていて良い。

ブレイド「クー、見ろ。これが人の力だ」

ここで言う人の力とは、他者と関係を結び、群になる力だ。
それはそのまま、クーとも関係を結べる――友達になれる理由でもある。作中の障害の突破口がテーマと重なるきれいな組み立て。
そも、この決闘の舞台自体、ブレイドひとりでは作れないわけで。彼に頼まれた生徒たちの協力という「人の力」で成り立っている。状況設定から一貫した軸がドラマの強度を上げている。
そしてBパートは感動的なAパートとは打って変わってギャグ。女児アニメ特有(?)のヒロインの激太り/ダイエット回である。テンポ良くお約束の展開をするコメディパートで笑顔になる。

画ヅラもすっかりゆるゆるに戻る。アーネストは太っても萌えだよ。
CV:山田美鈴さんのもったりとした太り演技も必聴。

みんなの力を借りてダイエットに励むも成果がないアーネスト。最後は魔剣の力で脂肪を燃やして痩せ、リバウンドオチで〆。みんなの力もへったくれもねー。Aパと真逆の内容でワロタ!
でもこのBって3話でひと肌脱いだアーネストのポジション調整よね。
アーネストのお菓子好きと自制の効かなさ・小狡さを前に出すことで、彼女の立ち位置を年長者からただのガキンチョに引き戻している。クーちゃんと同レベルの幼さをアーネスト(と彼女の心の機微がわからないブレイド)も有しているという話でもある。
アーネストたちの子どもっぽさを尊重するような手つきが好ましい。

みんなで強くなる・いろんな子と仲良くなる・いつでも楽しくやる。こうした芯が最後までブレない教室アニメの理想形だった。捨てキャラがいなかったり深刻な場面でもコメディが挟まったりね。ラノベ原作でありながら児童書めいた雰囲気を帯びているのは作風の美徳ゆえか、単にブレイドが実質五歳児だからか。
しかし国王は邪悪すぎんだろ。学園ものの大人ポジですよね? 全体的な印象のゆるさに寄与しているといえばそれはそう。


⑨レベル1だけどユニークスキルで最強です 第6話「美人さん登場なのです」

ブラック企業で働くサラリーマンだった俺が転生してきたのは、あらゆるものがダンジョンでドロップされるという奇妙な世界。レベル1だが、ドロップ率オールSというユニークスキルをひっさげ、新たな人生が始まった! そんな俺は今回……免許取得に再びゴリラ!? そして火炎魔法を使う謎の美女と出会って!? いったいどうなる!?

今週のあらすじパート大好き。チラ見せ映像の時点で狂ってるんよな。
監督は現代アニメシーンの立役者・MAHO FILMの柳瀬雄之氏。『イセスマ』1期や『リアデイル』『達男』で見せたフィルムのキレは健在だ。外国の方にジャパニメーションについて訊かれたら氏を挙げますよぼかあ。
ちょっと懐かしいコミカルなノリで視聴者を楽しませた本作からは、頭から尻尾まで様子がおかしかった6話を選出した。
ダンジョン深層部に潜るため、免許センターに向かうリョータたち。カスみたいな態度の試験官の熱い手のひら返しには笑う。「ここで十年以上働いてるが一番感動した!」わざとらしい台詞良すぎる。
試験でアイデアを閃いたリョータは数日後、荒野のど真ん中にマグロを置く。シュール極まる光景を見守ってるとマグロがゴリラに変身。文字に起こすと意味不明だけど実際そうなるんだから仕方ない。どういう頭してたらこんなすっとんきょうな設定思いつくんだ……?
ゴリラを倒してドロップした銃を拾い、二梃持ちとなったリョータに、エミリーは恐れおののいて言う。

エミリー「け、拳銃二丁……ヨーダさん、どうか闇堕ちしないでくださいです~!」

は?
二丁拳銃の運用を研究するくだりもたいがいおかしい。回復弾がふたつ融合すると睡眠弾になるの、意味不明すぎる。「へえ~、癒しの力倍増ってわけだ!」「そうだ!」そうか? 冷凍弾+火炎弾=消滅弾はわかる。メドローア

監督十八番のアイキャッチ芸もキレている。「もうアイキャッチしたくないですうー!」ボイコットすな。本編の外にメタネタを挟むスタイルも昔の作品っぽい。

後日、リョータはダンジョン長に呼び出され、新ダンジョン調査の依頼を受ける。
突然角砂糖をわし掴みでドカ食いし始めるダンジョン長、コワすぎる。完全に死んでいた目が急につぶらな瞳になるのもオモロい。「この人、糖尿病が怖くないのか……!?」ツッコミどころがズレてるよ~!
新ダンジョンへ向かう旅の道中、地面にもやしさん(??)を描き始めるエミリー。その場で思いついた感あふれる絵描き歌もセットで萌えだ。自分たちの後に道を通る人に元気を与えたいとのこと。ひと気のない場所には看板どころかゴミひとつ置いていけない(モンスター化してしまう)世界だから、地面に描いた絵くらいしか残せるものがなかったりする。しかしこの地上絵、独特すぎる。旅人さん困惑するだろこれ。
無人の荒野での一幕と夜のキャンプで出たゴミの処理によって、リョータは街に着く前にゴミを燃やす仕事の重要性を知る。エミリーの四次元リュックはともかく、このあたりは理性的な筋書き。
隣街に着いたリョータたちはゴミの焼却屋・セレストと出会う。「あれは月100時間を超える残業をしてた人たちの顔だ!」からの過労で倒れるセレストで〆。サブタイの話、最後の3分だけやんけ。

飾り気のないさりげない優しさが沁みるセレストさん回の8話、「絵コンテ・演出・作画監督・原画/柳瀬雄之」の最終話も超良かったけど、今回は福緒さんの今後の活躍に期待する意味で6話を選んだ。
6話および9話の脚本は声優の福緒唯さんが執筆している。『イセスマ』からたびたび監督のアニメに出演したご縁だろうか。元々舞台の脚本で活躍されているとはいえ初のアニメ脚本、実にめでたいけどまあハードル下げとくか(何様?)と予防線を張っていたら夏アニメでも屈指のヤバ回が出てきて狂っちゃったね。
おれはアニメを観てるとき「このシーンはこういう意図で~」とこじつけるタイプだけど、だからこそ本作のような素朴な味にはほっとする。何も考えず素直に目の前のものを受け取っていけるというか。
あったかくて楽しくてトンチキな、よき転生ものアニメであった。定期的に監督のアニメが放送される世界であってほしい。


⑩でこぼこ魔女の親子事情 第6話「薔薇園のおしりあい事情」

世界は愛で回って行くの Around 'n' around 渡して受け取るだけバラバラ
表現は違うからこんがらがっちゃって大変! ジュワッとLove is in the air...

どちらかというと愛じゃなくてへんないきもので回っとらんか? と視聴中は思っていたけど振り返ってみれば割と愛で回ってた。
『冰剣』のたかたまさひろ監督が送るマジカルドタバタコメディ。子育てや親子のあるあるネタを魔法で誇張したコメディを軸に、バリエーション豊かなへんないきものが登場しては暴れ回る。矢継ぎ早に繰り出される無軌道でフリーダムなアッパー系ギャグと、その裏に織りこまれた人と人との関係が光るアニメだった。魔法や種族の設定がきちんとしたハイファンタジーでありながら、ふわっと夢のある雰囲気なのが往年のキッズアニメっぽくて良い。必ず次回予告を用意しているのも朝のアニメ感がある。童話劇場や絵描き歌のようなネタも作風とマッチしていた。
ギャグアニメらしく15分×2本立てが基本の本作からは、最終話以外で唯一の長尺回だった6話を選出。人と妖精の叙情に満ちた勝負回らしい仕上がりになっていた。画面には常時ケツが浮いてますが……。
アンナ嬢の庭園の妖精・ヒップ(ローズヒップの精だからヒップ)からの相談を受け、アリッサたちはヒップの兄・ケッツ(シモツケの精だからケッツ)を説得しにアンナ嬢の屋敷に行く。「どこでお知りになったのですか?」「血肉の争い」などといった恐ろしくしょーもない言葉遊びが随所に挟まっていて楽しい。
咲かなくなった庭園の薔薇が気になってお嫁に行けないアンナ嬢。原因であるケッツはさながら娘を嫁がせたくない父のよう。発狂したケッツがいちいち乱舞するせいで画も音もうるさい……!
ふたつ違うのは、ケッツはアンナの父ではなく、また人でもない点。
アンナに妖精の姿は視えない。当然ケッツの存在も知らない。ケッツは一方的にアンナに想い入れ、寂しさを覚えているだけだ。婿が善人であることを知ったケッツは寂しさを飲もうとするが、アリッサは妖精を可視化する手段に触れ、話すチャンスを与えようとする。しかし。

アンナ「誰かが傍で見守ってくれているような気がして。だから私、ずっと思ってたんです。お父様が今もお庭にいるんじゃないかって!(中略)その『もしかしたら』にずっと救われていました」

アンナの夢を守るには、見守っていたケッツは姿を現せない。ストレートに切ないドラマなのに尻フェチ云々言い出すから困る。「父の想いが籠った庭園」にフェティシズムが説得力を与えてるのなんなんだ。下ネタと泣きが表裏一体ですごい。

ケッツ「私は父親になりたかったわけじゃない。感謝や愛情が欲しかったわけでもない。ただ――」

ケッツはアンナが父を失って泣いていた幼い頃のように、彼女とトリーノの頭に薔薇を落とし、庭園を一斉に咲かせる。
そこに一抹の寂しさはあれど、未来への不安や悲しみはない。少しの助言とアンナの笑顔がケッツの心を救うお話。人と妖精の関係を保ったまま、魔法抜きで解決する。好き。『おジャ魔女どれみ』をオールタイムベストのひとつに数えるヲタクなので。

盛り上がるドラマに映像も応える。コンテから撮影処理までグッド。

ビオラ「まだ時間はたくさんあるよ! 今回はお話できなかったけど、これからもチャンスはあるよ! 突然アンナさんに妖精が見えるようになるかもしれないし」

未来に希望を残した前向きな〆も大変素晴らしかった。すべてが良いほうに転びそうな温かい空気が本作にはある。

今話はアリッサとビオラの寿命差についても軽く触れているけど、しっとりしたムードはすぐに終わって上記のビオラの台詞が入る。以降も直接的には掘り下げずに最終話の〆へと至る。へんないきものたちがテーマを支えていたことには驚かされた。
長命種と短命種の交わりを核に据えた作品は多いが、ここまで明るく爽やかな語り口の作品はかなり新鮮だ。不死鳥のフェニックスをペットの位置に置いちゃうのが巧みなんだよな。血縁の有無も寿命の長短も「生命」という単位でくるんじゃってる。『江戸前エルフ』はわびさびで『でこぼこ魔女』は祝福なんです。タブンネ


⑪おわりに

冬4・春3・夏2・秋1と偏った選出になってしまった。
惜しくも選外となった話数は下記の通り。なんか11コある。

■The Legend of Heroes 閃の軌跡 Northern War 第1話
顔なき兵士、勇気ある民、英雄と作品のテーマが凝縮されている。緊張と弛緩のバランスも良い。
■人間不信の冒険者たちが世界を救うようです 第12話
個の世界を救い続けた先に大きな世界の救済がある。人が持つ負の感情を認めたうえで広大な理想を掲げていた。作品の哲学を支える演出とコンテワークも圧巻。
■解雇された暗黒兵士(30代)のスローなセカンドライフ 第6話
サウナで湯気に包まれたと思ったら結婚して出産していた。
■事情を知らない転校生がグイグイくる。 第8話
今という幸福を積み重ねて未来に行こうと伝える子どもと、未来に来て過去の不幸を笑い話にしちゃおうと伝える大人。事故に見舞われた子どもの今と未来を祝福する名エピソード。
■BIRDIE WING -Golf Girls' Story- 第18話
ケレン味満点の演出にハイテンションな台詞がバシバシ乗る。畳みかけるようなスピード感で迎えるED、かっこよすぎる。
■Opus.COLORs 第12話
変な設定と長い溜めへの不満が一発で解消された。今年随一のクライマックス。
■ライザのアトリエ ~常闇の女王と秘密の隠れ家~ 第5話
サービスカットの見せ方が創意工夫に満ちていて楽しかった。ライザたちの連携も見応えがある。
BanG Dream! It's MyGO!!!!! 第10話
視聴者にすら背を向けたライブにうっかり心打たれてしまった。
■AYAKA -あやか- 第11話
人並みに弱い人間がそれでも強くあろうとするさまに弱い。「なるべく未練が残らないよう、他人から期待されない生き方をしてきた」。他人の期待が未練になりうるのは応えたい自分がいるからで、そういう性根って自分勝手な奴とは対極なんだよジンギさん。
■川越ボーイズ・シング 第9話
フィルムから迸るセンスに圧倒された。絵コンテ・演出・作画監督・原画/武内宣之。8~10話が連続したシナリオになっているのも尋常ではない。
るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-(2023年版) 第17話
今回のリメイクで一番得したのは雷十太先生だと思う。

『僕ヤバ』『好きめが』『MFゴースト』あたりは全話良くて選びづらい。『吸死2』最終話Bパートは純粋なコントでは今年イチ笑った。『16bitセンセーション』8話の想像力の話は印象深い。『攻略うぉんてっど!』最終話の作中ゲームクリアしたエンヤァおる?

今年のアニメも極上でした。本数多すぎる&面白すぎる!
以下、どうでもいいなんやかや。

クール単位でアニメを追い始めて今期でちょうど10年になる。
往時に比べてずいぶんと偏屈で弱いヲタクになってしまった。その瞬間の愉快さや不快感のなさを過度に重視している……無理に矯正する気もないけど、最低限の自覚は持っときたい。
あれこれケチをつけつつもアニメは毎クール最高に楽しめている。今年は居場所や自分らしさを巡る作品との出会いが多かった。ネットの居場所が壊れまくってるから余計目に留まったのかも。
Twitterへの投稿もいつまで続けられるか知れたもんじゃない。とはいえ終わるまでは終わらないしそれまで足場を移す気もない。昔のおれからすれば見るに堪えない不誠実な言葉であっても、せめて自分の気持ちには誠実に思うままを書き記しておく。今のおれが未来<いま>を生きるおれにしてやれることはそれくらいだろう。

ありがとう

来年も無理のない範囲で楽しくアニメを視聴していきましょう。
2024年のアニメ始めは三が日からの『友崎くん』2期。昨日1期観た。いいアニメだった。がんばって♡がんばって♡No.9くんの時代だ♡