2020年TVアニメ10選

おれにとって今年のアニメは「あるがままの他者の肯定」であった。
久しぶりに10コ選ぶやつの寸評が書きたくなったので書く。話数単位だとがらっとタイトルが変わってくるので作品単位。全体を整理したいタチだから実はこっちのが肌に合うんじゃ。


SHOW BY ROCK!!ましゅまいれっしゅ!!

ゆるっと見られるポップでキュートな青春音楽百合アニメ。しかしてその実態はバンドアニメという概念を突き詰めた、個性と変化を巡る物語におけるひとつの完成形である。
お話は田舎住まいの少女・ほわんがオーディションのため上京し、後にバンド『Mashumairesh!!』を組む3人とライブするところから。それぞれが違う悩みを抱えるMashumairesh!!の4人の対比、そして彼女たちとはベクトルの異なる2バンドとの対比を通して、バンドを組む理由と、自身が何者か・それを知るのは誰かを描く。
一緒にきらきら輝きたいから、大好きな仲間と音楽をやる。
人より優れているからではなく、あなたがあなただから共に居たい。
本作全体を貫くアイデンティティへの力強い肯定は、自身の才覚を厭っていた少女・ヒメコの心を救い出す。「すごい」ではなく「好き」。ほわんの純粋な好意が胸に届いたとき、ヒメコは彼女と「好き」を共有するために才を振るえるようになり、やがては「すごい」という賞賛さえも素直に受け取れるようになる。
これと対照的なのが特別に焦がれる少女・ルフユのドラマ。ヒメコやデルミンと違い褒められたい・特別になりたい彼女の存在が、すごさへの憧れを否定しない作風を成立させる。人より特別になりたいルフユと普通になりたいデルミン。ふたりがそのまま友達になれる事実は最終盤における「才能も人格もその人を織り成す要素」という止揚につながる。

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レッツ!フレッシュ!ニューフェイス! 4人は4人のまま変わっていく。

ひとりひとりが違う美点・欠点を持つからこそ肯定しあえる。互いに影響しあい、変化して、楽しい日々を生み出していける。そこには彼女たちがバンドである意義と、変わりゆく心、変わりえない個性への深い慈愛がある。
……と堅っ苦しく骨子を書いたが、本作最大の魅力は普段のだらっとした空気感の良さだ。雑談や生活の描写が全体の質感を底上げしており、アドリブの多さもあってキャラの吐息にはたしかな温度が宿る。惹かれるように再視聴をすれば散りばめられた台詞や演出に膨大な量の対比や反復・変奏を発見することができ、3周、4周とつい観てしまう。つい、である。そういう魔力がある。ケモキャラの耳と尻尾を活かした豊かな感情表現も◎。本作や前枠の『ネコぱら』を見て、おれはすべてのアニメキャラに耳と尻尾が付けばいいと思うようになった。
骨・肉付け・味付けどれもが「すごく」て、かつ「好み」でもあるという、文句なしの2020年マイベストアニメ。まさにルナティックアニメーションだった。

リアルタイムでの視聴完了時に書いた長尺の評はこちら。

② 耐え子の日常(シーズン1・2)

定期的にやべーのが現れるショートアニメ界の今年のやつ。理不尽に笑顔で耐えるOL・辛抱耐え子の日常を描く漫画がまさかの全編ミュージカル調でフラッシュアニメ化された。3月に第1期を終えたが直後に2期の放映が決まり、以後は夕方の1分番組に枠を移して放送ちゅ……お、大晦日に終わった……。
本作の特色は他の追随を許さないネタのスピード感だ。5分という短い枠に多数詰めこまれた荒唐無稽なネタ。矢継ぎ早に繰り出されるギャグにはこちらのツッコミが追いつかない。初見時はなにこのアニメ……と戸惑うあまり苦行じみた感覚に陥るが、見ているうちに軽妙なテンポがだんだんクセになってくる。耐え子を演じる一般女性・田中さん(仮)が繰り出す「〇〇に耐える~♪」のメロディがいい。アニメ化に際しミュージカル調にした監督の発想が光る。

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画像は朝美がぬるっとランプの魔神を召喚するシーン。フリージかな?

ネタの自由度にも驚かされる。恋愛や職場の人間関係などのOLらしいネタから全力のスラップスティック、果ては伝奇・ファンタジーまでなんでもござれ。割とチョロかったり実はノリが良い耐え子のキャラも魅力的である。周囲の異常な挙動に対していつも(^o^;)みたいな顔で耐えてるが、たまに真顔になって内心キレていたりするのがホント好き。こちらが笑いを堪えられない。耐え子の近辺、治安が悪すぎる。
本作の看板ネタといえば耐え子の無二の親友(本当に?)・朝美である。すべてのネタが掛け値なしにひどい。ぶっちぎりで今年最悪の女。サブタイ『こんな友達に耐える』が表記されたときの緊張感といったらない。朝耐えは覇権CPですよ。百合のヲタク耐え子見とるか?
1分アニメに変わってからは尺的な物足りなさを覚えるが、5分時代より凝縮された分さらにテンポが上がってしまった。単位時間あたりの実況ツイート数では並ぶアニメがない。一挙放送だとアカウント凍結される。でもまたやってほしいなあ……そんな感じで中毒性の高い、狂騒曲みたいなアニメ。

乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…

2020年の名作しかない春クールで優勝してしまった…
『八男』『アルテ』と並ぶ春の三大貴族アニメの一角。頭を打ち前世の記憶を思い出したカタリナ・クラエス嬢が、このゲーム世界「FORTUNE LOVER」で自身を待ち受ける破滅の未来を回避するべく(主に農業に勤しむなどして)奔走する。
いわゆる転生ものでありながらチート要素はほぼ見当たらない。使える魔法は土ボコ一本、ゲームの内容はうろ覚え。技能も知識も半端なカタリナの最大の武器は人徳である。食と野山を愛する楽天家と化した彼女に周囲は戸惑うが、その素朴な価値観はありのままの他人の人格を捉える。既存のしがらみに左右されない肯定は人をコロリとオトす。身分も性別も関係なしだ。人たらしラブコメを標榜するのも納得の逆ハーレムルート。
おバカで幼いカタリナに打算はなく、ただ自然にふるまっている。それが本人もあずかり知らぬうちに他者を救い、好意を寄せられる。序盤はこの繰り返しなのだがこれが見ていて非常に気持ちいい。いいやつが好かれると嬉しい。エンターテインメントの基本である。
3話に渡る幼年編を終え、舞台は魔法学園に移る。ゲームの主人公・マリアの個別回である5話も素晴らしいのだが、そこから数話がSILVER LINK.アニメの本領発揮と言えよう。
ぶっちゃけみんなでわいわいやってるだけの回がしばらく続くのだ。

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小学生の絵日記みたいだが(華)(麗)は指導要領にはない。

夏休みを満喫し、ダンジョンに突入し、本の世界で欲望にまみれ……キャラクターを十二分に活かした脂の乗ったコメディはべらぼうに楽しく、このまま永遠に放送していてほしい気持ちに駆られる。カタリナへの好意の発露の仕方で個性が出るのがいいんよね。傍に居られればいいメイドのアンと、傍に居てくれるだけでいいカタリナの噛み合った関係を写し取る9話が個人的なドツボ。
終盤は生徒会長・シリウスの闇の魔力によって眠りについたカタリナが、前世の幸せな夢を振り切るさまが描かれる。指先だけしか届かなかったあっちゃんに今生の別れを告げて、前世の夢から覚めたカタリナの手はソフィアの手に包まれている……。あっちゃんからもらったゲームの知識をもとにカタリナは会長の居場所を突き止め、過去に苦しむ彼へと自覚的に善意を向ける。
「みんなが私にしてくれたように、傍に居て、悲しい時、辛い時には話を聞いて、元気が出るまで一緒にいるわ」
みんながそれを為せたのは、カタリナが最初にそれを為したからである。ままならない運命の中でここに居る人と手を取り合い生きる。カタリナの言葉にはこの物語の善性が詰まっている。
世界をより善きものに変えていく自身の姿を知らず、誇らず、そんな主役がもたらすいっぱいの笑いと共に駆け抜けた12話。納得の第2期決定である。土おじさんのCMもパワーアップして帰ってきてほしい。

④ 異常生物見聞録

カン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
中国の大人気ウェブ小説をbilibiliがアニメーション化。伝説のアニメ『音楽少女』の西本由紀夫氏を監督に据え、海を渡りやって来たちょっと反応に困るタイトルのアニメは、騒がしい冒険と日常を切り取った幸福のフィルムだった。地上波で放送されなかったことが心の底から悔やまれる。
無職の青年・好人はふとしたなりゆきで人狼の少女・莉莉と吸血鬼・ヴィヴィアンに出会い、一軒家の空き部屋を貸すことになる。それをきっかけに彼は希霊帝国(多元宇宙の秩序を維持する組織)の審査官見習いとなり、様々な異類の入居受け入れと管理を生業とするはめに。
こうして書くといかにもハーレムもののフォーマットだが色恋はない。後に増える男女の同居者を含めて彼らは純粋な「仲良し」もしくは疑似家族に近い関係の何かとして描かれる。きわめてフラットな関係性のコニュニティが起こすドタバタ騒ぎは、同性同士や小学生のそれとも似て非なる手触りがある。大人の社会で失われるきらめきのすべてが詰まっているような……この空気感を味わえる一幕といえば10話のキャンプだろう。好き。
さて、本作のユニークさといえば何よりロケーションの奔放さだ。イングランドの古城、宇宙船、他惑星の海、そして夢の次元。先述した『耐え子』以上に自由でワールドワイドな世界観は、愉快な異常生物たちを常に新鮮な環境に放りこむ。ユニークで愛嬌あるキャラクター×トンチキシチュエーション=最高! ここに大陸の風を感じる突き抜けたギャグが乗るからたまらない。アニメの楽しさの真髄である。大陸といえばミニキャラによる本編の外の中国語コーナー『いじょうせいぶつけんぶんろく』も大変に気が抜けていて面白い。『アイドルメモリーズ』で中国語を学んだヲタクもにっこりである。
物語が進むにつれメインキャラは増え関係も深まっていく。常日頃喧嘩している莉莉とヴィヴィアンが互いを憎からず思う関係に変わっていくのは本作最大の見どころと言えるだろう。ヴィヴィリリは覇権CPですよ。百合のヲタク異常生物見聞録見とるか?

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あっちは最強メンバーのイザックスさん!

世界を股にかけた冒険、仲間を賭けた戦いを終えて、異常生物たちが挑む最後のシチュエーションは現代の日本社会。光熱費を払えず止まったガスと電気を復旧させるべく、お金を稼ごうとバタバタするさまがこの物語の終章となる。路上ギター、鉱脈掘り、宝探しに隕石落とし(?)。ムチャクチャであり当然稼げない。彼女たちはどこまでいっても社会不適合者の集団だ。しかし莉莉だけが犬カフェで働くという社会性を発揮し、さらにはバイト先で学んだ料理を家で好人たちにふるまう。疑似家族に当てはめれば子ども役、貴女は食べるだけだとかつてヴィヴィアンに謗られた莉莉が、である。
莉莉の成長は異類が人間と共存できる証明となる。しかし彼女がみんなに手料理をふるまいたいと願い努めたのは、その動機の源泉にはきっとヴィヴィアンの羽根の付いた背があるのだ。
他方新しい入居者になるはずだった卵は茹でられた。頭がゆだるようなオチである。光熱費を払った後はゆで卵。
ところでその、BD発売決定はまだですか……?

⑤ Lapis Re:LiGHTs

「魔法×アイドル」をテーマに掲げるメディアミックスプロジェクト。ふたつの要素はそれだけ聞くと奇妙な食い合わせに感じられる。舞台も現代ではなく魔獣が跋扈するファンタジー世界である(ゲームジャンル:RPG。シャンシャンしない)。しかし見るまで何が出てくるのかわからないのがアニメというもの。ことこのアニメ版はすべての要素を見事使いこなしてみせた。ソシャゲの男主人公をオミットするアニメは名作らしいね。
物語はウェールランドの第一王女にして伝説の魔女・エリザに憧れを抱く妹・ティアラが喧嘩の末に家を飛び出し、魔女養成校・フローラ女学院の門を叩いて幕を開ける。
前半クールはどこを切り取っても紛うことなきトンチキアニメ。いずれもバラエティに富んだ面白おかしいエピソード揃いである。クソすごろく回などはアニメ観てるな~! と幸せな気持ちになれる。でもキャバレー部は一線越えてない? メディアミックスはパラレルワールドという設定をタテに暴れてない? 各ユニットの紹介を兼ねつつアニメは楽しく進行していく。
ティアラのドラマはユニット『LiGHTs』を結成した8話で転機を迎える。初のオルケストラを披露するもポイント不足で退学が決まり、故郷に戻ったティアラはエリザに「憧れだけでは魔女になれない」と告げられる。ここでLiGHTsの仲間がエリザの言う通りだと首肯するのがミソ。

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「みんなを照らしたい」から「私が輝くことでみんなを照らしたい」へ。

自分は自分でしかない。その厳然たる事実を受け容れたとき、ティアラは単なる憧れではない、自分だけの衝動――魔女の道を見つけ出す。
わたしとあなたは違う人間で、得意なことも好きなことも違う。だから自分の手に届く範囲でやれることからやってみればいい。こうした個々の役割分担を、主題歌をはじめ多くの楽曲で歌われる虹=七色のモチーフに見立てるのが美しい。個々人のカラーが違うからこそ実現できる協働の象徴。それこそがオルケストラであり、あるいはこの世界の営みなのだ。
ティアラに魔女を諦めるよう言い続けたエリザの真意は最終話で明かされる。声を失った自分のようになってほしくないと伝えるエリザに、ティアラは「私はお姉ちゃんとは違うんだから」と笑顔で答える。自分は自分。憧れの姉には「なれない」という可能性の閉塞が、声を失った姉には「ならない」という希望に反転する。そして自分だけでは足りなければ仲間に補ってもらうのだ、とも。
本作は誰もが違う人間であることへの希望に満ちている。

⑥ 魔王学院の不適合者 ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~

寸評を書いたくらいでこのアニメの力を測れると思ったか?(魔王構文)。
アニメ制作会社SILVER LINK.が誇る二大監督・大沼心氏と田村正文氏が贈るキング・オブ・エンターテインメント。得点は無論0点である。ヲタクには計測不能のため。
このアニメの強みは何を置いても主人公のキャラに尽きるだろう。その御名もアノス・ヴォルディゴード様。神話の時代より2000年後の今世に転生した魔王であり、平和と家族とキノコグラタンを愛する最強の人格者だ。ちょくちょく挟まれる世間離れしたおじいちゃんみたいなトークが好き。ときには自覚的に2000年前ジョークを放つセンスもあり、学内にファンクラブ(アノスファンユニオン)が誕生するのも納得のイケメンぶりである。
2000年の間に改竄された歴史と偽魔王の謎を追う、という話の大筋自体も吸引力が高く面白いが、道中の肉付けである悪役とのバトルがまた異様に楽しい。最終話までほとんどの敵がゲスであり、謎にモチベが高いのだ。アノス様の力を目の当たりにしても怖気づく様子を見せない。高慢と差別意識とガッツの塊みたいな敵たちを冗談じみた画ヅラで薙ぎ倒していく(強すぎてアホみたいな画になりがち)活劇はエンタメの覇道を征く。というかアノス様が力を振るうだけで楽しすぎるんですよね……「山が吹き飛んだわ!」「川も枯れた……」で笑顔にならんヲタクおらんやろ。衝撃のコメディ・アノス様応援歌も戦いに華を添える。

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本気に~な・れ・な・い(ウッウー)♪  絶・魔王~~~~♪

しかしそんなふざけた応援歌がここぞというシーンにおいて「王と民が与えあえるもの」として扱われるのには本当に痺れた。ユニオンにとってはアノス様が、アノス様にとってはユニオンが。応えるべき人の存在こそが踏ん張る力をくれる。ウッウー! アノス様がユニオンを個々人として認識するのもポイントだ。
個々を慈しむアノス様の愛は内のみならず外にも向けられる。偽魔王として討たれることで平和をもたらすつもりの勇者カノン=レイ。人間が魔族に抱く憎悪の化身と呼びうる存在ジェルガ。アノス様の剣は憎悪の連鎖を断ち切り、その魂を救う。「人間が魔族を憎んだのではない、お前が俺を憎んだのだ」。愛するにせよ憎むにせよ、その対象は属性ではなく個人。そこには種族という垣根をナチュラルに越える平和への意志がある。
物語はレイがミサ、アノス様が家族のもとに帰り幕を閉じる。戦乱の時代に生きたふたりが平和な今世で愛を得るのだ。単に面白いだけではなくテーマに一本芯が通っている。実は徳の高い作品だった。世界が愛に満ちますように。

⑦ アサルトリリィ BOUQUET

可愛い女の子が異形の怪物とドンパチやってると……嬉しい! 同クールに3作品放映されるほどにメジャーなジャンルをかの天才アニメよろず屋・佐伯昭志氏が監督となって手掛ける。
本作品最大の特徴はシュッツエンゲル制度(学園内における疑似姉妹関係)の存在である。数多くの百合作品で用いられてきた古典的な設定は、本作ではその背に役柄を担う・あるいはおろすというテーマの起点となる。
姉として、妹として、人々を守る学園のリリィとして。そうあれかしと願い願われる理想像はときに重荷となるが、ときに自他を奮い立たせ、美しくあろうとする少女たちを支える。姉が妹の身だしなみを整えるシーンなどは象徴的だ。「わたしが理想とするあなた」の姿を押しつけたり引っ込めたりするドラマが1話から最終話まで様々な関係で見受けられる。美鈴-夢結-梨璃-結梨は言わずもがな、神雨姉妹やヌーベル親子、理事長代行と生徒らもそうだろう。
自分が抱く、相手に抱かれる想いはお互いへと影響する。この影響を及ぼす力自体にレアスキル・カリスマという形を与え、夢結と梨璃の関係の核に組みこんでいるのがテクい。夢結が望まずして保有しているレアスキル・ルナティックトランサーと合わせて、このふたつのレアスキルの特性はふたりのドラマの肝となる。
相手を「わたしが理想とするあなた」に変えてしまう支配のカリスマ*1
相手を「あなたが理想とするあなた」へと押し上げる支援のカリスマ。
自身が「わたしが理想とするわたし」から乖離するルナティックトランサー。
精神に対し無意識に発動してしまう二種三様の異能は美鈴と夢結、夢結と梨璃の姉妹関係を揺さぶるノイズとなるが、やがて逆にその根底にある感情を克明に浮かびあがらせる。
過去と違っても、何をしても、美鈴を手にかけていても夢結が愛しい。
思うように動いてくれない、自分を追いてけぼりにする梨璃が愛しい。
あなたがわたしの理想だからではなく、ただあなたがあなたであるから。姉妹、レアスキル、リリィ、ヒュージ――そうした外付けのタグを包括し、また剥ぎ取っても残る関係。それこそが夢結と梨璃、シュッツエンゲルとシルトが育む絆なのだ。

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社会からの「そうあれかし」が常に重く圧し掛かるリリィだからこそ、そうではない姿を互いに許しあえる関係が大事なのかも。

ふたりの主役の心情を追う上で無駄な台詞・場面が極端に少なく、そのどれもが幾重にも照応するため密度が高い。全12話でありながら2クールものに比肩する読み応えがあり、しかしさらっと流し見てもエンタメとしてきわめて上質である。ドデカい剣をブン回し重火器を掃射する迫力の戦闘、風呂を筆頭に多種多様なモチーフを活かした暗喩表現、情感を帯びた美術背景、そして何よりリリカルな台詞回し。それ単体で涙腺を刺激するプリミティブな強さがある。やや駆け足で難解な描写が多い印象は否めないが、総じて今年を代表する名作と呼ぶにふさわしいアニメだろう。でも結梨ちゃんの件はつれえよ・・・。

ご注文はうさぎですか? BLOOM

劇場版とOVAを経て円熟を迎えたシリーズ3期。過去のTVシリーズでは弱点だったテンポやキャラデザも改善され、日常系アニメの"王"たる貫禄を見せつけてくれる。ちょろっと世間を見回した時に「ごちうさ、3期になって変わった?」という声を複数見たのが印象的。
3期は高校進学を目前に控えるチノを中心に据え、変わることと変わらないこと、その選択を全キャラ(!)を通して描き、個々の道行きを肯定・祝福する前進の物語である。自身がもっとも輝ける場で輝けるかたちを取るのが大切で、誰かと一緒にいる/いない、変わる/変わらないこと自体に貴賤はない。骨太な価値観は3期のエピソード全体を貫徹している。
原作読者として目につくのはやはりエピソードの順序変更、そしてアニオリシーンの追加だがこれが目の覚めるような出来だった。1・2期と比較してみても明らかに大胆かつ洗練されている。6話では5巻のイメチェン回と6巻のパン祭り回をセットにし、ココアとチノ双方のお互いの「いつも」への好意を可視化している。アニオリでは同じく6話、ココアの「チノちゃんが私に似てるなら私は今の私でいいかな」や9話、チノからリゼへの「イメチェンしても全然いいと思います」あたりが勘所か。他にも挙げるとキリがなく、視聴後はコミックスとにらめっこである。増やした箇所はもちろん削った箇所にさえ明確な意図があり、ともすれば往時の原作以上にテーマの深掘りに成功している。このアニメはいわば原作に補助線を足したメディアミックスなのだ。作劇の比重がエモーショナルに偏ったのは好みが分かれるか。

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その再構成、絶大。(このシーンは別にアニオリではない)

変化を軸に進んだチノのドラマは最終話で一歩飛躍する。街の外に出て新しいセカイを知ることについてのチノの不安。それを払拭するのは自身もかつて(木組みの街への)来訪者だったココアである。故郷を出てちょっと変わりラビットハウスで楽しくやっている。そんなココアの今の姿こそがチノの未来に対する福音だ。傘を忘れても雪の中を踊りながら帰った10話のように、セカイを豊かに“観る”ココアの魔法によって変わってきたチノは、これからも変わっていく勇気を胸に抱き、笑顔で感謝を告げる。その一歩は君を見ているから踏み出せる――チノが浮かべる満面の笑みは、この2年の変化の結晶である。
漫画を読みこんでいても常に新鮮な気持ちで楽しめる上に、見落としていた数多の魅力に気付かされる最高のアニメ化だった。旅行編を筆頭に今後の展開がますます待ち遠しい。

⑨ 体操ザムライ

ドヨルテレ朝奇跡の1時間・スポーツアワー(OTAKU2020)の跳躍担当。時は平成、2002年の日本体操界を舞台に、ピークを過ぎた元代表選手・荒垣城太郎の再起を描く。製作は『ゾンビランドサガ』のMAPPA村越繁という座組。『かつ神』『シートン学園』の座組と言われるとちょっとドキドキする。
こう言うと身も蓋もない気がするが、本作、単純に面白い。単話の構成にそつがなく、見終わった後の満足度が高い。ここで挙げる10作品の中でもっとも人に勧めやすいだろう。リアリティライン破壊生物ことビッグバードの存在も肩肘張らない空気感の醸成に貢献しているのが匠の技。90年代の名残をとどめるゆるい雰囲気が好ましい。
そんな本作の柱にあるのは「演技」への深い敬意だと思う。父子家庭で在りし日の母のようにふるまう9歳の娘・玲と、ニンジャに憧れてござる口調なバレリーノの居候・レオナルド。城太郎を主役とする体操競技の物語と並行して、ロールによって日々を生きる玲たちのジュブナイルが展開される。玲の物語のクライマックスである6話は私的ベストエピ。父の前で完璧な主婦を演じようと(=母のようで在ろうと)気を張っていたこと自体、図らずもかつて自分の前でそうだった母とぴたりと重なる。大人のふりをやめて父の胸で思いっきり泣きじゃくった後、いつの間にか自転車に乗れるようになっている自分自身に気が付く。

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幸福をもたらす鳥はロールを真実にしろと圧を掛けてくる。玲につねられるのも道理である。最終話では文字通りレオの背中を蹴っ飛ばす活躍を見せる。

演じ続けた理想はいつしか本人の力に還元される。より高難度の技に挑み己を高めていく体操のように。この哲学はキャラクターを問わず話の随所に散見される。でもねえ、このアニメの作劇にはそうした力強さだけではなく、ロール抜きの人格を尊重する優しさも同居しているんだ……その柔らかい筆致こそ、おれが本作に惹かれるポイントなのかも。
終幕において荒垣父娘はそれぞれの演技を結実させる。キティ・チャンとの出会いを経て母のような女優になると決めた玲は、母が演じた大河ドラマの台詞を以てレオから勇気を引き出す。自身は女優、レオはニンジャ。そのロールも自己の一部なのだとして。
そして城太郎の演技は自身の既存の限界を超克する。彼が屈伸アラガキを編み出し見事成功できたのは、彼がヒーローだからではなく、ニンジャの助言と声援があったからだ。
演じる者とそれを見つめる者。演技はその両者に力を貸す。玲がレオを、レオが城太郎を、城太郎が鉄男を変えたように。あるいはこのアニメの視聴者にも、何かが届いているやもしれない。
大会を終えると場面は2年後に飛び、さっくりと幕を下ろす。ちょい食い足りないくらいの尺がむしろ完璧な余韻を生んでいる。過不足なしの美しい着地はいかにもこの作品らしい。
レッテルもペルソナも力に変え、今ある自分を越えていく。心の暗がりに寄り添いつつも上を向かせるいいアニメだった。跳べ!! 抗え!! ヲタク!!

⑩ いわかける! -Sport Climbing Girls-

ドヨルテレ朝奇跡の1時間・スポーツアワー(OTAKU2020)の登頂担当。予定されていた春・夏アニメの放送時期が後ろへとずれこみ、時ならず空前の豊作となってしまったこの秋クールで、なお頂へと登り詰めた予測不可能のダークホースである。今マーダー・ヲタクベーションって単語思いついたけどひっこめた。
いや、本作、マジありえん楽しい。まずはこの一言に尽きるのです。パズルゲーム全国1位の高校一年生・笠原好が興味本位で入部したクライミング部で活動を続けるうち、スポーツクライミングの魅力に取りつかれていくというのが大筋。導入となる序盤もマイナースポーツものとして良作なのだが、個性溢れるライバルが揃い始める4話からが真骨頂。くるくるすbot、ウサ耳レズ蜘蛛、ボキャ貧パンサー、語尾がにゃー、やんす(一人称あっし)……巻き髪バレリーナやヤンキー、ゾンビ、マッスルが薄味に思えてくる。開き直ったコテコテの味付けのキャラを見ていると心が躍る。緩急の効いた卓抜したギャグ、ゼロ年代でもねーよ! とツッコみたくなる崩した演出も最高。「君がそうならそこをそうさせていただく」のズレたセンスはすごい。丸一週間笑い続けて日常生活に支障をきたした。

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ラストカット原画の全体的にぶっ飛んだ勢いはなんなんだ。

そんな軽い口当たりの本作だが題材とドラマには真摯だ。クライミング周りの描写は堅実かつ視聴者にもわかりやすい(突然パンサーになったりクソダサいスーツを装着したりするが……)。ときにはあえて説明を省く受け手を信頼した表現もある。花宮女子の4人だけを見ても個性に応じた得手不得手があり、その連環がクライミングというスポーツ自体の掘り下げとなる。シンプルだが非常によく練られた構成であり舌を巻いてしまう。
キャラ付けが濃くとも繰り出される感情は真に迫っている。花宮の4人は元より好敵手・久怜亜と茜のドラマもいい。憧憬と劣等感がないまぜの少女の感情はおれに効く。相手を凹ませたいくせにいざ凹むとキレ出す女なんだよな。11話のノノ先輩の声も未だに耳にこびりついている……キャラの声質を保ったままあのような叫びを絞り出せるのか。富田美憂という声優のポテンシャルを叩きつけられる一幕。
好は個人部門では全国トップのくるくるすには敵わない。しかし団体部門では花宮女子として優勝を掴み取る。持ち味が違う仲間の存在が栄冠への鍵となる帰結は、バラエティ豊かなキャラに彩られた作品の〆にふさわしい。
これぞ深夜アニメと歓喜にむせぶ楽しい表現に満ち溢れ、しかし楽しいだけでは終わらない芯の強さと太さを感じさせる。長丁場だった今期ドヨルを締めくくる爽やかな快作だった。途中で次回予告がなくなってしまった点だけが心残り。すすすすくるくるす~。



以上。以下、おまけで選んだ話数単位10選となんやかや。

① 22/7 第7話「ハッピー☆ジェット☆コースター」
SHOW BY ROCK!!ましゅまいれっしゅ!! 第10話「プラットホーム」
③ アルテ 第4話「コルティジャーナ」
白猫プロジェクト ZERO CHRONICLE 第7話「山菜採り」
かぐや様は告らせたい?~天才たちの恋愛頭脳戦~ 第11話「そして石上優は目を閉じた③/白銀御行と石上優/大友京子は気づかない」
八男って、それはないでしょう! 第12話「八男って、それもありでしょう!」 
Re:ゼロから始める異世界生活 2nd season 第29話「親子」
ジビエート 第12話「命の果てには」
⑨ ご注文はうさぎですか?BLOOM 第6話「うさぎの団体さんも大歓迎です」
⑩ 体操ザムライ 第6話「親子ザムライ」

このラインナップで書いたら全然違う雰囲気になるだろうな……。シャチバト10話やアラド11話、キンスレ9話も捨て難かった。D4DJ4話なんか当確級だけど来年に回る。ブシロードが悪い。

今年のアニメも豊作でした。ましゅましゅに始まりアサリリに終わるような1年間だったけれど、リアルタイムの視聴体験はスポーツアワーが抜群に良かった。一般層にもリーチしうるルックと完成度の体操ザムライ、ヲタク向けに振りきった極上B級娯楽アニメのいわかける。連続で摂取することによって相乗効果が発生していた。深夜2時半から朝まで続く感想戦もまた思い出深い。
このレベルの番組編成とはしばらく出会えそうにないけれども、こうした体験を上回るために新アニメを見続けるのである。……視聴体験に限った話ではないか。作品単位でもそうだ。更新されない「今が最高」は「昔が最高」に変じていく。他人のそれを否定はしないけど、おれはもうちょっと走り続けたい。走って走ってそれでも残った「最高」に価値があると信じたい。

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『恋とプロデューサー』いいアニメだったよね。

年末いっぱいまで秋アニメが続き、冬クールは三が日から(僧侶)。なかなか切り替えが大変だけどキリキリ突っ走っていくぞ。

それでは来期アニメで会いましょう。よりもいの再放送も楽しみ。

*1:これは相手の目に「あなたが理想とするわたし」を映すことにもなる。夢結側の視点について考える際のひとつのポイントだろう。