『TVアニメ「聖剣使いの禁呪詠唱」亜鐘学園学園祭~We are the・夏~』に行ってきた(昼の部)

f:id:n_method:20150714222316j:plain思い…出した! 綴るッ!

7月12日日曜日朝。深夜3時までひとりワルブレ上映会を開いていた私は目覚ましアラームにセットしていた『salatiga』で目を覚ました。変身時のBGMである。
待ちに待った超最強のイベントデー、コンディションは最高潮。ラーメン屋で早めの昼食を食べてから電車に乗って会場に向かう。日曜の虎ノ門、昼営業のお店は少ない。

出足が遅れたため物販状況がやや不安。自然と足早になっていく。
TLを見れば「ワルブレ物販現在行列5000人」「現在8000人」「前世も含めて1万人」「Tシャツタオル限定3点!? 3人しか買えないじゃないか!」「3日分はあるぞ!!」etcetc、超最強の情報戦が繰り広げられている。あまりのウィットに頭がアイスみたいにとろけたところでニッショーホール着。

f:id:n_method:20150714223440j:plain
700人の《救世主(セイヴァー)》が集う決戦の地。
意識の高い救世主達は既に物販のTシャツに着替え、『綴る!』だの『ぶんぶく茶釜ーーーーー!』だのを誇らしげに上体に貼りつけている。
急いで私も物販に並んだ。10人ちょいだった。

f:id:n_method:20150714224557j:plain
物販リスト。事前にすべてを告知しないあたりワルブレ公式である。

f:id:n_method:20150714224516j:plain
イベント限定Tシャツはこちらの2点。他、コキュートスTシャツとサツキ名言Tシャツの計4種類のTシャツがある。

f:id:n_method:20150714225006j:plain
もうひとつのイベント限定アイテム、思い…出しタオルと、C87イベントセットも含めての計4点を購入。9500円。安い。

f:id:n_method:20150714225807j:plain
1ヶ月以上早い先行販売の抱き枕。実際静乃エロい。けど世界一可愛い抱き枕ことマーヤがいないのは確定的に間違っている。

f:id:n_method:20150714230238j:plainそんなこんなで開場。ハコ自体がコンパクトなので前ブロックじゃなくても壇上が近い。これはいい。
キャラソンアルバムが流れている中まったりと待つうちに席が埋まり、さらに待っていると諸葉さんのアナウンスが流れ始めた。

「さて……いよいよ亜鐘学園学園祭の開幕だ。まずはこの曲から!『緋ノ糸輪廻ノGEMINI』!」

!?
①開幕ライブ!!?
沸き立つ観衆、真っ赤にライトアップされる壇上、煙の中から現れる花魁姿のプチミレディ! 初っ端からフルスロットルだ!! 声優ファンも熱狂!!! サイリウムが客席を緋色に染め上げる!!!


②キャラクター紹介ムービー
ライブが終わり間をおかずにムービーが流れ出す。BGMは『World Break -Main Theme-』。
「兄様は絶対に負けない。だって、兄様は聖剣の守護者、最強の剣士なんだから!」
「前世も現世も来世も、ずっとずっと一緒にいたい!」
「尻は地球より重い!」などの名台詞のテロップとともにメインキャラクター達がスクリーンに映し出されていき、その度にやはり会場が沸く。
このコーナーが一番アニメらしいコーナーだった。ここからはシンプルに地獄である。

本イベントのMC・天津向が軽い自己紹介を終えた後、メインキャストが登場。
まずは最強の救世主・石川プロこと石川界人(灰村諸葉役)が舞台袖からかっ飛んできた。当たり前みたいに綴るTシャツと思い…出しタオルを身に着けている。ワルブレ過剰摂取で頭がイカれた客と勘違いされてもおかしくない。
引き続き竹達彩奈さん(嵐城サツキ役)、悠木碧さん(漆原静乃役)、小倉唯さん(四門摩耶役)、内田真礼さん(百地春鹿役)、上田麗奈さん(エレーナ・アルシャヴィナ役)、小見川千明さん(アンジェラ・ジョンソン役)と最強のキャスト陣が続々入ってくるが、石川プロの登場に引きづられてポーズ的なものを取らざるを得ない雰囲気に。みなさま大変にかわいい。

悠木さん「本日は竹達が無事にウィーアーザ夏を言えてよかったと思っています」
これ、今となっては半ば誇張抜きの心配だったんじゃないかと思う。

石川プロ「最高の思い出綴っていこう!」


③思い…出した! 名場面トーク
Webでとったアンケートのランキング。ちなみに私はインヤン・ヴリトラ、奪われたくないなら奪うな、コキュートスに投票した。
昼の部はバトルシーンベスト5。

天津向「キャストの皆さんこのバトルが入るんじゃないかとかありますか?」
小見川さん「おっぱいバトルですか?」
天津向「……えーっと、どうされましたか?」

・5位:諸葉VSエドワード(4話)
羽多野渉さん(エドワード役)のアドリブが光った回とのこと。チャラ~もダッダン!も全部アドリブとか……すごいな。
石川プロ曰く、この作品はアドリブやセリフのニュアンスで遊んだ場面が数多くあるらしい。件のラップもだ。
竹達さん「プロ・フィット*1の2人に煽られた」
石川プロ「だって韻踏んでたし」
悠木さん「韻踏んでたし、ねえ?」

・4位:サツキVSソフィ(8話)
竹達さん「お、思い…思い…」
天津向「思い出してください! 今この場で語れるのはあなたしかいないんですよ!!」
竹達さん「俺の屍を越えてゆけって感じだった、なんか」
……お、おう(この人大丈夫か……?)。

・3位:百地VS諸葉(5話)

f:id:n_method:20150715001959g:plain
天津向が海回で他に印象に残っていることをキャストに尋ねる。
なぜかシームレスに諸葉の尻の話が始まる。
天津向「神崎さん……夜の部で降臨されます」
石川プロ「来ちゃうんだよなあ……そうだ、テストのときはもっとリアルなあえぎ声でやってたんですよ。あっ……ァアッ↑」
悠木さん「やめなさい!!!!」
ちなみにもっと生々しさを抑えて、という監督の指導もあったらしい。

・2位:静乃VSレーシャ(7話)
上田さん「なんか静乃さん攻めてると楽しくなってきちゃって。なんかぞくぞくするーって」
悠木さん「私が右? 私が右か、わかった」
ナンの話だ。
ちなみにこのバトル、最初のアフレコでは静乃が殺る気出しすぎでドスが効いてしまったので、もう少し抑えめで、と監督にお願いされたらしい。……もしかしてキャスト陣、しばしば演技を抑えるようにお願いされていたのではないか……?

天津向「続いて第1位。……先に言っておきますがそれ(=おっぱいシーン)は違います」
小見川さん「じゃあなんなんですか!?」
天津向「バトルシーンだよ!!!!」

・1位:諸葉VS多頭種(2話)
「ヤシの木……」
「ヤシの木の回!」
「ヤシの木は忘れよう」
突然のヤシの木トーク。
小倉さん「実は今日の衣装にヤシの木のネックレス(¥300)を買ったんですよ。夜の部に付けてきたいと思います」
や、ヤシの木以外には?
「諸葉が横スクロールみたいに動いてた」
だからそのピンポイントな表現をやめて!!!

・ランキング以外で印象に残ったこと
内田さんからは弟(内田雄馬:万年堂亀吉役)のアフレコをドキドキしながら見守っていたこと、小倉さんからは最終話でやっと綴れて嬉しかったです!(やたらかわいい)というのが挙がった。
なんと綴る用の分厚い台本があったらしい。


④最強のペアは誰だ!何を綴っているのでしょ~か!
女性陣が2人1組のペアに分かれ、片方がくじ引きで決めた道具を使って空中にお題の文字を綴り、もう1人が描かれた文字からお題を当てるゲーム。
答えがどうしてもわからない場合は助っ人役・石川プロにジェスチャーヒントを求められる。

4.1 Aチーム(綴る内田さん→答える悠木さん)
道具:指差し棒。お題:スイカ。
スッ、スーッと小声で言いながら(かわいい)内田さんが『スイカ』の3文字を中空に綴っていく。お、わかりやすいぞこれ。
しかし悠木さん「わかったけどー、わかんな~い☆」と石川プロにジェスチャーを要求。ひでえ。
石川プロが颯爽と参上、スイカ割りのジェスチャーを始める。額で棒を地面に押さえてその場でぐるぐる回った後、見えないスイカを一刀両断。ますますわかりやすい。
Aチーム、難なく正解。

4.2 Bチーム(綴る竹達さん→答える小倉さん)
道具:ペンライト。お題:おふろ。
サイリウムとかではない本物のペンサイズのライト。とりあえず点灯させる竹達さん。観客に向けるのは眩しいから、と指摘され、ぱっと自分の顔に向ける竹達さん。「眩しっ!」。当たり前である。こ、この人は……

竹達さんが綴った結果はわかるようなわからないような……やはりジェスチャーへ移行。
石川プロ、服に手をかけぐいっと脱ぐ……ふりをする。つま先からゆっくり湯船に浸る。リラックス。ふ~……すごいいけないものを見ている気がする。とんだサービスシーンだ。
Bチームも正解。

4.3 Cチーム(綴る上田さん→答える小見川さん)
道具:けん玉。お題:ゴリラ。
けん玉、リハであおちゃん(悠木さん)が悲惨なことになった曰くつきの道具らしい。
悠木さんでも乗ったから
石川プロ「いや知らないよ! 先輩だけど! 乗せるゲームじゃないから!」
悠木さん「でも乗ったもん……」

けん玉で綴るのは無理でした……そりゃそうだ。どうしようもなくジェスチャーへ。
石川プロ、深呼吸をして、何かを捨てるような表情を浮かべて……う、う○こを投げ始めた!! 習性か……ひどくリアルだ。小刻みなドラミングもそれっぽい。

Cチームもなんとか正解。
全チーム並んでしまった。ジェスチャーの質が高すぎる。


というわけで2周目。マジで?


4.4 Aチーム(悠木さん→内田さん)
道具:ゴルフクラブ(玩具)。お題:イギリス。
綴り自体はイイカンジ。でもジェスチャーはやらせる。
石川プロ、英国紳士を演じています。杖をついて、席を譲るようなしぐさ。しかしだいぶ伝わりにくい。内田さんが困惑している。
内田さん「ジェスチャーは忘れる!」
石川プロ「えぇっ……!」

正解。石川プロとはなんだったのか。

4.5 Bチーム(小倉さん→竹達さん)
道具:紐。お題:ドラゴン。
天津向「例の紐ではございません」
小倉さんは紐を振り回して軌跡を描くのではなく、紐で文字の形を象って表現していくスタイルを採用。しかし竹達さんには伝わらない。
ジェスチャータイム。ドラゴンはばたく。火を吐く。 勇者(勇者役も当然石川プロがやる)が剣で防御する。飛びかかって斬る。 ドラゴンやられる。
……これまた巧いなあ。ジェスチャーというより演技だ。
しかし竹達さん、最後までピンとこない。

天津向「この作品にも出ています……4文字。竹達さん、お願いします!」
竹達さん「ニワトリ!」
天津向「ニワトリが何を吐きますか!!」
竹達さん「タ、タマゴ……?」

不正解。さすがに笑い死にかけた……
間違った後もヒントは続く。炎を吐いていた、この作品にも出ている、ばっさり斬られる、エンシェント、といったヒントが次々口頭で出されていく。
石川プロ「インヤン・ヴリトラアアアアアアアアアア!!」
竹達さん「……??」
悠木さん「思い…出して!」
石川プロ「みんな、ありがとう! うおおおおおおおおおああああああ!!!」
竹達さん「…………???」
石川プロ「思い出せよおおサツキイイイイイイイイイイ!!!!!」

竹達さんは天津向さんの最後のヒント「最初の3文字は『どらご』です」のヒントでようやく正解に至った。

4.6 Cチーム(小見川さん→上田さん)
道具:傘。お題:えだまめ。
小見川さん、他チームの小倉さんを召還して二人羽織の様相で綴り始める。ナチュラルにルールを無視していてかっこいい。あとかわいい。
上田さんへの口頭でのヒント(まだ何も答えてないのに小見川さんが勝手に伝え始めた)は『小倉さんが好きな食べ物』。どんどんルールが追加されていく……つよい……

それにつけてもプロのジェスチャー。 枝豆をくわえて皮を置く。ビールを追加。枝豆注文。パクつく。やっぱり巧い。 正解。

結果はA、Cチームの優勝。

f:id:n_method:20150715014424j:plain
賞品は明宝ハム
石川プロ「ちょっと待って、俺あんなにがんばったのになんもないの……?」


⑤告知
物販情報、BD/DVD、キャラクターソングアルバム、原作新刊13巻(8月発売)等の紹介・告知。
先日発売された超最強のキャラソンアルバム、放送前に発売されたイメージソングミニアルバムの曲まで入った大満足の19曲収録なので本当にオススメです。
放送情報としてはリテイク版*2の放送がAT-Xで始まっている。dアニメストア、ニコニコ、バンダイチャンネルでも開始するらしい。絶対観よう。


続いて公式スマホアプリ『スクール・オブ・セイヴァーズ』のトレーラー告知。

俺は思い出した。お前も思い出せ。
絶対みんなで《救世主(セイヴァー)》になろうな。


⑥ライブ
閉幕を飾るのはfortunaよりエンディングテーマ『マグナ・イデア』。
声優ファンのコールがすごい。こちらもつられてオカしくなる。
そうだ、夏になれ。俺たちが夏だ。We are the "Natsu"!


⑦閉幕
アガりきった舞台にキャストが再登場し、一言ずつコメントを残していく。
イベントの〆は石川プロのこのかけ声。

石川プロ「来いよ、」
観客サラティガアアアアア!!!」

熱気渦巻く会場に救世主達の絶叫がこだまし、イベントは一度幕を閉じる。




ーーそして、夜の部が始まるのです。(夜の部の記事につづく)

*1:声優事務所。本作キャストでは悠木碧石川界人の2人が所属している。

*2:円盤収録の修正版。TV放映版よりぐんとグレードアップしている。

夜空の星を結ぶ魔法 ~放課後のプレアデス読解・感想~

「寄り添うように輝く星も、本当はひとつひとつが何光年も遠く遠く離れています。何もない空でひとり輝きながら、みんな、同じように星達を見上げているのかもしれません。その輝きが、いつか誰かに伝わるって信じながら」

f:id:n_method:20150628060810j:plain
SUBARU×GAINAXの共同アニメーション作品『放課後のプレアデス』が先日最終回を迎えた。言うまでもないが多くの視聴者同様、私は感動し、感動し、感動しきり、今なお心身が前後不覚に陥っている。毎話こんな感じだったが今回は特にひどい。どうにかアウトプットしないと心がおかしくなりそうなのでここにキーボードをとった次第である。
今回はこの史上稀に見る傑作(私の中ではもはや宇宙最高傑作)について、散りばめられた幾つかの謎に関する私見・こじつけをがっつり交えつつ、好き勝手に書き散らしていきたいと思う。


・可能性の結晶が持つ意志

放課後の魔法使いとしてエンジンのカケラを集める日々を通し、すばる達5人は自身のトラウマを克服してきた。ひかるは真実を知ること、いつきは自分を伝えること、あおいは誰かが変わっていくこと、ななこはいつか別れてしまうこと。各々の不安や悲しみ、自己否定は、すばるやみんなの言葉で得られた気付き、そこから選んだ自分自身の行動によって、どこまでも優しく取り払われる。
本作の「横の物語」はこの5人のつながりといえるだろう。
そして「縦の物語」に該当するのがすばるとみなとのつながりだ。
f:id:n_method:20150627215405j:plain
「それにこの星も、君のことが好きみたいだよ」

幼い頃、夢か現かわからない世界で、ふたりは星の交換をした。
みなとはこの世に生まれることすらなかった命の可能性の結晶を、すばるは母と作った折り紙の星を。
序盤でしばしば温室みなとが語る「星が君を導く」とは、この結晶を指していると思われる。星の交換がなければふたりは再会することもなく、物語も始まらなかった。温室みなとは深い眠りについたまま、角マントも呪いの形のままだったかもしれない。コスプレ研究会のみんながトラウマを払拭できたかも怪しいところだ。すばるは温室みなとと交わした言葉に背中を押されて、友達を助けてきたのだから。
では、なぜ可能性の結晶はすばるを導いたのだろうか。
それはきっと、すばる達を応援しているからだ。
f:id:n_method:20150627215814j:plain
6話においてドライブシャフトは突然の進化を見せる。
初見では意味不明(!)だったこの描写も、10話で花の正体がみなとの集めた可能性の結晶だとわかってからはすんなり理解できるようになる。
すばるの祈りを見たつぼみの花=結晶達は、自ら咲くことを選択した。おそらく自身の姿を確定させることで、弾き出される可能性のエネルギーをすばる達に渡したのだろう。
エンジンのカケラの方はわからないが*1、可能性の結晶達には明確な意志が感じられる。一度人の心に宿ってから弾き出された彼らが、変わりたいと願うすばる達を応援するのはとても自然な感情に思える。すばる達が友達を応援し続けたのと同じだ。
f:id:n_method:20150627214955j:plain
たった一輪を残して、咲いた花はすべて消えてしまう。

……これも推測だが、角マントも結晶のエネルギーを借りて魔法を使っていたのではないだろうか。*2
自分をやり直すために、自分と似た境遇にある可能性の結晶を助けるために、救いたい対象自体を削りながらエンジンのカケラを追い求めたのではないか。
だとすればその覚悟、心情は計り知れない。みなとがすばる達のモラトリアムじみたカケラ集めを唾棄するのも道理といえる。


・観測するということ

魔法使いのエネルギー=可能性の力は何者でもない人間に宿る。大人のように自分の在り方を規定した者はエネルギーを失い(弾き出されて)、魔法使いではいられなくなる。
「自分は魔法使いだ」と自認したみなととすばるが魔法を失うのはこのためだ。皮肉ではあるが。
f:id:n_method:20150627234154j:plain
「君だって僕と同じ……自分を呪っている」
「え?」
「心のどこかで君は、このままカケラ集めが終わらなければいいと、本当はそう願ってるんじゃないのか? それが、君自身への呪いだ」

そして、今の自分を否定すると、魔法は呪いへと変わる。

エンジンのカケラを集める活動自体を目的化していること。
変わりたいという自身への願いを、本心では否定してしまっていること。
心の奥底にある「今のままでいたい」という想いをみなとに指摘されたすばるは、自分の呪いを自覚する。
呪いとは自己を否定し、希望を奪う鎖である。
f:id:n_method:20150628030443j:plain
「私だって信じてる。会長がどう言ったって、すばるは変われるって!」

胸に星を宿せなくなったすばるを最初に後押しするのはあおいだ。7話で「私達は変わっていける」と自分を、相手を信じられたから、あおいはすばるに断言する。

しかし、あおいはすばるの眼前から忽然と姿を消してしまう。
夕焼け空を見上げても、ドライブシャフトは目に映らない。
魔法の世界から弾き出されたすばるは、ふらふらと庭園を彷徨う。手入れがなかったことにされている雑草だらけの花壇を前に、もはや途方に暮れるしかない。
ここですばるの背中を押す、きわめて意外な2人目の人物が現れる。
f:id:n_method:20150628032101j:plain
みなとの友人(以下梶君)!

「ほら、よくここであいつと一緒にいたろ?」
「あいつって?」
「ほら、うちのクラスのさー、いつもぼやっとしたあいつだよー。えっとー……あれ、おっかしいな……名前が出てこない……」

思いもよらない遠くの星が、同じようにみなとを観測していた。
自分と同様、魔法使いではない人が、である。
梶君の言葉を受けて、すばるは確かにみなとが此処にいたこと、なかったことになっていないことを再び信じられるようになる。
雑草が生えしきった花壇からあの花を見つけ出せたのは梶君のおかげだ。梶君は間違いなく本作の影のMVP。ありがとう梶君。
……まじめな話、ここですばるが「他人」に救われたという事実は、本作のメッセージ、ひいてはラストのすばるの台詞にも多大に関わっていると思う。
だいたい「みなとの友人」(実際キャストにこう表示される)というのがよく考えてみると重い。梶君の一方的な友達認定だとしても、みなとにはまだ観測者がいてくれたということなのだから。

ナナオレの自販機から見事いちご牛乳を引き出したすばるは、今度は消えたみなとへの扉を開こうと天文部室の入り口であがく。しかし魔法が使えないのは変わらない。そして過去にみなとがいたことが分かっても、今いない事実に変わりはない。
みなとは本当にいなくなってしまったのか。諦めかけたすばるの前に3人目の助けが現れる。胸に宿るもうひとつの星、可能性の結晶だ。すばるに魔法のエネルギーを貸して、ここでも彼女を導いてくれる。
f:id:n_method:20150628040921j:plain
扉を開き、病に伏せる真実のみなとを知るすばる。
植物状態のみなとの手の下には、かつて交換した折り紙の星が置かれていた。みなとが存在を信じられなくなり消えていた折り紙の星は、すばるの意志、観測によって再びその形を結ぶ。
真実のみなとは今も、幻だったかもしれないすばるのことを想っている。すばるもまた、幻だったかもしれないみなとを想い続けてここまで来た。

「ほらね。みなと君も私も、幻なんかじゃないよ」
互いが想っているのならば、それが幻であるはずがない。


・十字の星と五芒星

魔法使いが宿す胸(黒すばるのみ頭部)の星は、彼女達の可能性そのものである。
何者でもない、故になんにでもなれる放課後の魔法使い達は、胸に十字の星を宿す。
角マントは自身に可能性がないことを理解してしまい、胸の星を失っている。
f:id:n_method:20150628042026j:plain
黒すばるはすでに何者かになった後で、なお変わろうとする意志・希望を持つことで、頭上に光なき星を宿す。ダークエネルギー同様、既存の科学では観測しえないが、確かにそこにある可能性。星の持つ引力ではなく、斥力……離れる力を持つ何か。「まったく新しい魔法」。
(ちなみに、すでに何者かになったすばるのコスチュームは角マント同様、無垢な白から何色にも染まらない黒に変わっているが、自分を否定してはいないので呪われているわけではない)

何者かでありながら、再び何者かになれる≒変われる可能性を宿す「まったく新しい魔法」とは、こじつけるなら「変わること」を自己の在り方として規定し直すことなのかもしれない。
f:id:n_method:20150628042104j:plain
そして白みなとは可能性の結晶から生まれた、星型の星を宿す。
本来、魔法使いのコスチュームに星型は宿らない。宿るのは個の光、十字に伸びる光点の星だけである。みなとの胸の星だけが唯一の例外として描かれる。
f:id:n_method:20150628024403j:plainf:id:n_method:20150628025219j:plain
五芒星という形は他者との間に象られる。
夜空に星型の星が存在しないのと同じだ。星型は所謂パブリックイメージであり、現実の星がそのような形をしているわけではない。人同士の認識の間にのみ、星型は存在する。*3
みなとの星が星型なのも、それが他者とのつながりによって生まれたからではないかと思うのだ。無論、他者とはすばるのことである。すばるに貰った折り紙の星がみなとにとっての淡い希望=可能性だった、と考えてみても面白い。

衣装に白さを取り戻し、ピアスの色も赤から黄色に変わったみなと。さながら寿命を迎えたベテルギウス超新星爆発を迎え、新たな星に生まれ変わったようでもある……が、この衣装は胸に星型を宿す一方で(ピアスを除いて)十字の星を一切宿していない。星がキラキラと目に眩しいすばる達のコスチュームに比べると非常に淡白な印象を受ける。
ともすればこのみなとは、角マント以上に個としての可能性を持っていないのかもしれない。
この『放課後の世界』では既に滅びてしまったみなとに、この世に生まれなかった命の可能性とすばるの観測が与えた、一時ばかりの仮初の姿。それが白みなとなのかも。


・本当の魔法

「君達のおかげで僕達は新しい可能性を探す旅に出られる。宇宙の理を越えてまで、君達はエンジンのカケラを集めきったんだ! これこそが本当の魔法だよ!」

11話でちゃっかり暴露されていたが、プレアデス星人の魔法は科学に等しい。任意に可能性を選べるという技術は、言い換えれば「できることしかできない」。正しくSFの枠内といえる。

「ファンタジーは現実で存在しない、また存在しえない事柄を扱い、SFは現実に存在しうる、また将来いつか存在するようになるだろう事柄を扱い、つねに論理の領域内にある可能性に限定される」
(『天使と宇宙船』 フレデリック・ブラウン)

f:id:n_method:20150628050112j:plain
本作において並行世界はそれぞれが独立しつつ、同時に重ね合わせの世界としても扱われる。
特に6人の運命線が複雑に絡まりあった『放課後の世界』では、意志こそが世界を収斂し、事象を確定する鍵となる。
「この宇宙のおかげなんかじゃない。全部私達が、自分の意志と自分の力でやったことだよ!」
という、11話でのひかるの言葉は圧倒的に正しい。
重なり合っている世界を、求めるひとつに収斂させるもの。
エンジンのカケラを集めきれたのも、バナナオレの自販機からいちご牛乳を引き出せたのも、すべては強い意志が世界を引き寄せたからだ。

そして意志とは、他者によって引き出されるものでもある。

他者とのふれあいによって、今まで閉じていた可能性が開きうるということ。
すばるがあおい達の鎖を解き放ったように。みなとと交換した星がすばるを導き続けたように。可能性の結晶達がドライブシャフトを進化させたように。梶君がすばるの観測を後押ししたように。すばるとみなとに魔法が戻ってきたように。
f:id:n_method:20150628172928j:plain
(すばるに可能性を開かれてきたコスプレ研究会の4人が、文化祭の出し物において自分達が仮装するのではなく、客を仮装させる=可能性を開くのも印象的に映る)

人と人との間で紡がれる関係、その結果生じる確率・可能性の相互作用こそが、プレアデス星人でさえ予測することのできない、宇宙の理*4を越える「本当の魔法」を生む力だ。

この「本当の魔法」は『放課後の世界』特有のものではない。
いきなり飛躍するが、彼女達がしてきたことは言ってしまえば天体観測だ。1話・最終話での星を人に見立てたすばるのモノローグが表す通り、彼女達の……いや、すべての人間関係は、星空の模様と近似である。
現実には存在しない五芒星を結ぶことは、実在しない形を思い描き、夜空に星座を観測する行為と一致する。

そしてその星型は、相手が相手、自分が自分だったから結ぶことができたのだ。
f:id:n_method:20150628055713j:plain
「みんなを羨ましく思うのはきっと、困ったとき、落ち込んだとき、たくさん助けてもらったから」
「完璧な誰かになりたいってことじゃなくて」
「みんながみんなだったから」
「私が私だったから」
「一緒にいられたあの時間」
「だったら、私は私がいい。そしてそのとき傍にいる人の、きれいなところ、いいところを、たくさん見つけてあげたい」

「私は、私になる」

気付きを得た彼女達はただ単に元の世界へと「戻る」のではなく、自分の意志で元の世界を選んで「行く」。

星はいつだって離れ離れで、人も結局ひとりなのかもしれない。
けれど、自分と相手を肯定できたなら、星空を想うことができたなら、きっと孤独にはならない。傍で一緒にいる人と、一緒ではない遠くの誰かと、想いをずっとつなげていける。もしも巡り逢えたのなら、互いの可能性を開いていくことだってできる。
星々のつながりーー星座を結ぶのは、人の意志だ。
f:id:n_method:20150701224341j:plain
気付いたすばるが抱く祈りに、もう悲しみの色はない。
雨だったはずの流星雨の夜は晴天に変わり、空には星が降り注ぐ。

「夜空に浮かぶ星達は、ひとりぼっちの寂しさと、巡り逢う喜びを繰り返して、長い時の中をすれ違っていきます。
今日の予報は流星雨。星空を見上げていると、今はまだ出逢えていないどこかの誰かのことを、ふと思ってしまいます。
その誰かも、同じようにこの星空を見上げていて。
星達は空から、そんな私達の姿を、見守っていてくれるはずです」

f:id:n_method:20150628060001j:plain
「待っててね!」
すばるの言葉は、まだ出逢えていないすべての人への、いっぱいの希望だ。


・全話通しての雑感

1話、バス停のあおいを遠くから見つめるシーンで一気に心を掴まれていた。叙情性に満ちた作品が好きだ。ポエムなんかもう大好物だ。心のチャンネルをリリカルに合わせたところで描かれるのは、2話でのすばる・あおいのカケラキャッチ。ふたりの距離感と映像がシンクロしているさま。ここで私は完全にノックアウトされてしまった。
カケラ集めの目的が会長の宇宙船を直すため、というのがピンとこない瞬間もあったが、しばらく観ているうちに、これは彼女達自身が抱える問題と大目的を切り離すことで「一緒に何かを達成したい」という彼女達のシンプルな想いを強調するためだとわかった。これは世界を救うだとかではない、あくまでささやかな少女達のお話なのだ。
そんなミクロな物語を描くために、国立天文台の協力を得ての考証を重ねているのもすごい。色んな意味でおそろしく贅沢な世界の使い方だと思うし、映像面でもこれ以上のスケールの作品は今後そう出てこないだろう。先に物語を作ってから当てはまる宇宙の現象を探したのか、宇宙の現象をもとに物語を作っていったのかはわからないが、各キャラクターの個別回は、もとい個別回も、ひとつのハズレ回もない傑作中の傑作である。本筋やテーマとリンクしているのがまた素晴らしい。YouTube版からの4年間でどれほど徹底的に練りこんだのだろうか。
本作は単に科学・天文学方面での考証が重ねられているから良いのではない。重ねた考証を物語と接続し、見事に一体化しているからこそ、こうも魅力的に映るのだ。
ダイナミックな宇宙の情景と少女の心象を重ね合わせる手法には宮沢賢治を感じたりもする。心を直接揺さぶられるような感覚は文字通りの「感動」だった。これが映像媒体の力かと感服した。毎回私の精神が崩壊しそうだったというのは誇張のない本当の話だ。
個別回があまりに良かったため、9話以降の「縦の物語」に不安を覚えたりもしたが、それもまったくの杞憂だったのは上につらつら書き殴ったことからお分かり頂けると思う。10話で少年の一人称視点が飛び出してきたときなんかはもうね……

放課後のプレアデス』はSFと魔法と少年少女の心にどこまでも誠実な傑作ジュブナイルアニメだった。
6月末からは学研から児童書、8月にはSF作家・菅浩江先生がみなと視点(!)の小説を刊行されるが、どういったジャンル・枠組みにおいても通用するパワーが本作には詰まっている。
他の刊行書籍も含めて楽しみに待ちたい。Febri Vol29*5も素晴らしかった。放課後のプレアデス……ガイナックス最後の光……


おわり。
星を想って生きていきたい。

*1:10話で角マントを刺し貫いているあたりに何らかの意図は伺える。

*2:最終回においてみなとの持つ可能性の結晶の数が減っていたことが示されている。

*3:十字光の星も現実にあるわけではないのだけれど、ここはフィクションレベルが違うということでひとつ……スバルのエンブレムですし……。

*4:宇宙の理には光速の壁などといった物理的側面と、自分ひとりでは越えられないような精神的側面(例えばずっと魔法使いでいたい、というような)があると思う。

*5:一迅社発行の美少女キャラクター・ビジュアル情報誌。29号は放課後のプレアデス特集。佐伯監督および協力された国立天文台教授へのインタビューと第10話までのコメント付き各話解説などが掲載されている。

変わらないものを見つけるために ~放課後のプレアデス第7話『タカラモノフタツ 或いは イチゴノカオリ』読解~

放課後のプレアデスを観ていると毎週精神が崩壊寸前までいくのだけれど、今回またしても最高に過ぎるやつで文が長くなってしまったのでたまにはこちらに書く。


・あおいがすばるに覚える不安

f:id:n_method:20150523160647j:plain
「あおいならすばるのことなんでもわかると思ってたよ」
「……そんなわけないよ」
「すばるちゃん、なんだか変わったみたい」

2話以降、あおいは目の前のすばるが自分の知るすばるなのだと盲目的に信じてきた。しかし、6話ですばるが自分を守ろうとしたこと、何も言わずに突然園芸部に入ってしまったことを受けて、再び不安を覚えはじめる。

2話ラストで、あおいはすばるにこう告げた。
「今度またあいつが来ても、すばるは私が守る」
この言葉が表すように、あおいの知るすばるとは、自分が守ってやらねばならない弱々しい存在、庇護対象に他ならない。
6話のときのように、自分を守るために体を張る強い存在などではない。

f:id:n_method:20150523160814j:plain
あおいはすばるを元気づけるのに加えて、すばるが自分の思い描くすばるであること、変わっていないことを確かめるために、以前(2話)それを確認できたいちご牛乳を手渡す。
そして昔のように、ぽんとすばるの頭に手を置く。
「一緒に探すからさ、ひとりで抱え込むなよ」

f:id:n_method:20150523172342j:plain
みなとのことを話すうちに泣き出してしまうすばる。その姿を見て、あおいは自身の思いを吐き出してしまう。
「すばる……なんで黙ってたんだよ。言ってくれたらよかったのに」

今度は1話の序盤を思い返してみたい。
バス停近くで友人と喋る「元の世界のあおい」に、すばるは声をかけられなかった。もしきちんとしたお別れをできていたなら、ひょっとしたら声をかけられたかもしれない。少なくとも、あんなにも切ない光景にはならなかっただろう。
境遇はあおいも同じだ。
彼女たちふたりは別れてしまった事実と同じくらいに、別れを選んだ理由を伝えてもらえなかったことに対して、強い痛みを感じている。
過去に横たわるその痛みは、お互いを確かめあえた2話以降もずっと棚上げにされたままだ。決してなかったことにはされていない。

そうして今もまたあおいは、園芸部に入ることも、みなとの件も伝えてもらえなかった。
蘇る痛みに耐え切れず、あおいはその場を逃げ出してしまう。

行き着いた先、校内で、あおいはひとり自分を責める。
「変わりたいって思ったんだ。だからここにいるはずなのに。結局同じことを繰り返してる」
あおいの自己嫌悪は、黙っていたすばるに怒ってしまったからだろうか。
それとも、すばるの成長を認められない、小さな自分への憤りか。

変わっていくすばると変われない自分を見比べて、「すばるは本当に私の知るすばるなのか」「またひとり置いてかれてしまうのではないか」というあおいの不安は、いっそう大きく膨らんでいく。

f:id:n_method:20150523173032j:plain「この学校に温室はないよ」
一方ですばるは、転校生の園芸部員となったみなとと再会を果たす。
しかしみなとは、さながら初対面の人間のようにすばると接する。今のところ理由は不明だが、以前と同じみなとであるという確証を、すばるに持たせようとしない。


・彗星と太陽

f:id:n_method:20150523173326j:plain「なぜこのカケラがこうして彗星の中に取り込まれているのか」
ガス惑星を突き抜けるとかしたせいで凍ってしまったのでは、と会長。
5話においていつきの自戒が土星の輪で表されたように、このカケラを覆う氷はすばるとあおいの今の関係を暗喩する。
彗星ーー大切なものを覆ってしまった現実の塊ーーに力ずくで背中を押され、前に進めばいいのか後ろに戻ればいいのか、わからないままに時間は過ぎて、5人は太陽へと落ちていく。

f:id:n_method:20150523173537j:plain燃え盛るプロミネンス。一旦の離脱。現れる角マント。
バランスを崩したあおいの手をとるすばる。あおいはその手を振り払ってしまう。『自分を支えるすばる』という構図を、その変化を認められない。
「……ごめん」
目を逸らしながら、あおいはすばるに懺悔する。
「自分でもわかってる。このままじゃダメだって。……変わりたいって思ってるのに」
あおいの言葉に顔を歪ませ、すばるは答える。
「私だって!」

すばるとあおいは1話でのように、どうして自分を置いていったのかを互いに問いかけあいながら、カケラに向かって飛んでいく。
無論ふたりとも答えられない。行き場のない感情をぶつけあうことしかできない。
思い出されるのは、別れる前にふたりで歩いた、初めての雪の日のこと。

f:id:n_method:20150523175857j:plain
「本当は私のこと、ずっと足手まといだったのかなって思って。でも、怖くて訊けなかった」

f:id:n_method:20150523175918j:plain
「ずっとすばるを助けてたつもりだったけど、ただのひとりよがりだったんじゃないかって、何度も思った」

そしてふたりは同時に気付く。
「私たちは置いていかれたほうなんだよ。だからふたりとも、答えを持ってないんだよね」
すばるの目から涙がこぼれる。炎が2人をさえぎる。
「私たち、一緒にいたかっただけなのに。ここでせっかく会えたのに」

f:id:n_method:20150523181855j:plain
「ばかすばる! ここまできて迷うことなんてあるのか!」
「ふたりならわかってるはずだわ!」
「寄り添う気持ちで運気上昇」

今、ふたりがお互いを大切に想っているということ。
かつて別れた事実があっても、目の前の彼女が別の世界の彼女であっても、それだけは確かなことだ。
3人の言葉に背中を押されて、すばるは涙を拭う。
「行かなきゃ……行こうよ、あおいちゃん!」
「うん!」

降り積もった雪、彗星の氷が覆い隠した『大切なもの』を、熱い感情の発露と太陽の炎が剥き出しにする。ダイナミックな宇宙の情景ときめ細かい心理描写をシンクロさせた、いかにも本作らしい表現といえるだろう。詩情に満ちた鮮やかな流れが否応なく心に残る。
眼下で噴き盛るプロミネンスを眺めて、あおいはぽつりとこう漏らす。

「まるで炎の上を跳ねてるみたいだ」



・変わる関係、変わらないもの

f:id:n_method:20150523182854j:plain
角マントの攻撃によろめくすばる。今度はあおいがすばるの手を取る。
ぎゅっと軽く手を握り返すすばると、はっとするあおい。すばるとあおいは目で通じあう。
そしてあおいは手を離す。守らなければと思っていた、その相手の手を。

f:id:n_method:20150523202032j:plain
『もう離しても大丈夫だよ』という、すばるの想いが聴こえてくるようなシーンだ。
すばるはもう守るべき対象ではない。ともに戦い、守り守られる、対等な親友なのだ。ついに理解したあおいは、すばるにこう問いかける。お前なら当然できるだろ、と、気軽に確認するように。
「すばる、飛べるよな?」
「うん!」

並んでカケラへと向かいながら、ふたりは同じ日の過去を思い出していた。
小学六年生のとき、キーホルダーをなくしたすばるの頭に、あおいは優しく手を置いた。
まだすばるが守られるばかりだった頃のことだ。

f:id:n_method:20150523191118j:plain
あおいの世界では、キーホルダーを見つけたあおいは、すばるにそれをプレゼントされる。
「いつでも、どこにいても、すばるがどんなに変わっても。変わらない大切なものは、ちゃんとここにある」

f:id:n_method:20150523191335j:plain
すばるの世界では、すばるはキーホルダーをもうなくさないことを誓った。
「いつだってあおいちゃんは私を助けてくれる。だから私も変わらなきゃ。いつかあおいちゃんを守れるくらいに」

それぞれの過去と想いを胸に、ふたりは信じる。
「私たちは変わっていける」

互いが抱いたその想いは、小学校の頃、すでに相手から受け取っていたものだ。
離れ離れになって、知らない間にお互い成長して、変わってしまった世界の中で、ふたりは再びそれを見つけ出した。
だからふたりは、変わっていけると信じられる。

f:id:n_method:20150523190457j:plain
プロミネンスにかかったカケラをキーホルダーと重ね合わせて、ふたりは穏やかに言葉を交わす。
「すばるに助けられてばかりじゃいられないからな」
「私だって! あ、でも、あおいちゃんと一緒にいるのはずっと好きだよ」

この、文面だけ見るとまったく脈絡のないすばるの返答。
変わらないものを見つけたすばるの言葉の、なんて頼もしいことだろうか……!
あおいに助けられるばかりの、今まで通りの自分でなくなってしまっても。
逆にあおいを助けられるような、強い自分に成長した後でも。
自分はあおいとずっと一緒にいたいんだよ、と。すばるはそう告げている。

その言葉はきっと、あおいが一番ほしかった言葉だ。

f:id:n_method:20150523185638j:plain
すばるの頭に伸ばした手を、あおいはそっと引っ込める。
あおいがすばるの頭に手を置くのは、それが昔からのふるまいだからだ。守られるすばると守るあおい。変わらぬ関係を象徴するその行為に安心していたのは、何もすばるだけではない。いちご牛乳を差し出したのと同じ意味合いの行動といえる。
しかし、あおいはそんな安寧から決別する……いや、わざわざ確認する必要がなくなったと言ったほうが正しいだろう。

「どこにいてもどんなに変わっても。すばるはすばるだし私は私だ」

あおいは、自分の知らないところで成長した、変わった幼馴染を認める。
同時に、すばるの内側に変わらないものがあることを確信している。これからすばるがどんどん変わっていっても、それだけは変わらないと固く、強く信じている。
もうあおいに不安はない。

f:id:n_method:20150523185924j:plain
「そうだよね」
それはもちろん、すばるも同じで。


今回の話はすばるとあおいが絆を確かめあうという一点において、一見2話の焼き直しに見えるかもしれない。しかし、その根底では「変化」に対する正反対のアプローチがなされている。
2話は相手が自分の知っている相手であること、変わっていないことを、いちご牛乳や星めぐりの歌で確かめる物語だった。
一方で今回の7話は、相手が変わってしまうことを恐れずに受け入れる、受容と肯定の物語といえるだろう。
スタート地点に立つための2話と、そこから踏み出すための7話。
「変わる」とは「変わらない」とは一体どういうことなのか。ふたつのプロセスを経て描き出した本作の緻密さ、丁寧さには脱帽するしかない。


f:id:n_method:20150523195013j:plain
いつきたち3人と別れた後、すばるはキーホルダーの件を切り出す。
取り出したキーホルダーは寸分違わず同じものだった。持ち続けてきた大切なものは、どちらも間違いなく本物だ。
なぜすばるの世界ではすばるが、あおいの世界ではあおいがキーホルダーを持つことになったのか。
その理由にふたりは、やはり同時に気付く。

「私たち、置いていかれたわけじゃないんだ」
「そうだよ、私たちふたりとも、大切な友達から宝物をもらったんだよ」

都合の良い、当人たちにとって気持ちの良い解釈だろう。
けれどそれで正しいのである。ふたりがそう信じているなら、その「答え」が間違いであるはずがない。

目の前の相手とは違う、もうひとりの相手を、お互いに信じられるということ。
なぜなら目の前の相手が、自分を好きでいてくれたから。自分も相手が大好きだから。
それをもう一度、ここで確かめあえたから。

……はたから見て、間違っていると思えるだろうか?


・今一度、いちごの香り

f:id:n_method:20150523200303j:plain
「あと、これ! 好きだよね!?」
失ったかもしれないものを本当に失わないために、すばるは再びみなとへ向かう。
いちご牛乳を突き出すすばるの態度は毅然としている。自分とあおいをつないだそれが、今度はみなとにつながると信じている。

変わらないものを確かめようとしているのは序盤のあおいと同じなのに、どうしてこうも受ける印象が異なるのか?
それはすばるが、みなとの変化を肯定しているからだ。

「僕は君の知らない僕に変わったかもしれない。ほとんど別人みたいにさ」
「うん、そうかもしれない。でも私、友達に教えてもらったの。だから、」

変わってしまった相手の中に、変わらないものを見つけ出せることを、すばるはもう知っている。「変わってもすばるはすばる、私は私」と笑った、あおいの言葉を覚えている。
見た目も居場所も言動も違う、自分の知らないみなとの中に、すばるは果敢に踏み込んでいく。すばる自身も、強く変わっていくために。

「みなと君はみなと君だよ」

そしてその勇気は、みなとの中に潜んでいた、変わらないみなとを見つけ出す。

f:id:n_method:20150523201017j:plain
「きみはそうやってまた、どこからか扉の鍵を見つけてくるんだね」




つづく。
……しかしホント、どうなってしまうんだろうかこのアニメ。2010年代に刻まれる傑作だと思うのですが。
毎週がクライマックスで観るたびこころが爆発してしにそうになっている。

『天体のメソッド プレミアムイベント』に行ってきた(夜の部)

 

16時30分。TLにクソツイを放り込んだ私は新宿駅東口前のドンキホーテへとひた走った。
昼の部のステージでイベントなるもののすさまじさを理解した私は、すぐさま現地で夜の部のチケットを調達したのだ。次に手に入れるべきものも理解していた。人生には金と体力を惜しんではならない瞬間がある。
サイリウムはレジ前にあった。15色切り替え可能のカッチョいいやつ。半ば本能で手に取りレジへ。「3207円になりま~す」た、高い。一瞬躊躇うが遅い。購入。
後に調べたがこれ、キンブレというライブ民御用達の一品らしい。電池交換式だし発色・使い勝手もいいのでおススメです、キンブレ。他の知らないけど。
汗をかいたのでコンビニでガリガリ君も買う。

f:id:n_method:20150426233548j:plain

会場へ帰還して指定された座席に着く。
2階4列目真ん中の段通路沿い。2階席としては悪くないポジション。そういえば2階最前列って関係者とかいるのかな。久弥とか。
サイリウムを確認しているうちに開演5分前となり、乃々香とノエルによるアナウンスがスピーカーから流れてくる。昼の部と同じ演出だ。
「ノエル、これから大事なお話をするから、邪魔しないでね?」
「うん!」
「会場内での録音、撮影は禁止です」
「ぱしゃ……ぱしゃ……」
「もう、ノエル。大事なお話だからもうちょっと我慢してね?……上映中は携帯電話をマナーモードにしていただくよう、お願いします」
「もしもし、ノエルだよー。ぴぴぴぴぴぴ、ぷーぷーぷー」
「開演はじゅヴッ……」
「……」
「……」
「……」
「18時となっていますので、しばらくお待ちください」
夏川椎菜、噛んだ。録音じゃなかったのか。
とんだハプニングに開演前から沸きあがる観客。ナンスコールが途絶えた頃、夜の部の幕が上がった。
「いったい何をしに戻ってきたの?」
昼夜通しで参加した客に冷たく言い放つ小松未可子さん。キレッキレである。

夜の部の構成も昼の部と基本的には変わらない。
①キャストによる自分以外が演じたキャラの好きな台詞
②ネットで実施した名シーン投票の結果発表
③BD7巻映像特典・オリジナルショートアニメの一部紹介
④『そらメソラジオ』でやっていたコーナー(そうさ! ソーサー捜査)の拡張版
⑤fhánaとLarval Stage Planningのライブ
⑥〆のキャストコメント

といった流れ。


①キャストによる自分以外が演じたキャラの好きな台詞
昼の部と異なり、今度は自キャラ以外の台詞を選ぶ形式となっている。昼同様、選ばれた台詞はその場でキャストが演じてくれる、なんとも嬉しいコーナーである。
まずは夏川さんから。選んだのは柚季の台詞。笑いながら豊崎さんがステージ前に立つ。そして台詞がスクリーンに映された。

「私も乃々香がいつも笑ってるの、よく覚えてるな。お母さんもさ、見たいんじゃない? 今の乃々香の」(7話)

これこれって感じだ。乃々香に背中を押されてきた柚季が、今度は乃々香を支えるために言葉をかける。倒置法の効きが最高。
私はこの『天体のメソッド』という物語の最大の悲劇は、乃々香と約束を交わした生前の古宮花織にほんの少し言葉が足りなかった点だと思っているのだけれど(後述)、乃々香の中で花織の言葉が息づいていたからこそ、乃々香は笑顔で柚季たちの背中を押していけたのも事実。乃々香の今を肯定する柚季の言葉は、結果的にその先にいる花織さえも肯定する。
7話はひとつひとつの言葉に様々な意味が織り込まれた、非常に天メソらしい話数だと思う。

続いて豊崎さんが選んだのは、兄・湊太のこの台詞。
意気揚々、というかノリノリで前に立った石川界人は、映し出された台詞を見て思わず「うわ」と苦笑した。「難しいんだよなこれ……」

「ノエルなんて知らない。知らないはずなのに……無視できないんだよ」(13話)

文句なしの名演だった。やっぱりすごいよ石川プロ。
12話以降の湊太は6人の中でも飛びぬけて変化の大きいキャラだ。半ば別キャラと言ってもいい。円盤世界とは異なり、事故のなかった12話以降の世界では、彼は大人になる必要がなかった。だから年頃の男子らしく自分の感情をさらけ出す。
石川プロは12話収録当時「また違った湊太が出てきたぞ!」と頭を抱えたという。キャラの出で立ちや過去を探り出す工程を何度も重ねて、散々悩んだ挙句、素直に思うままの湊太を演じたところでOKが出たらしい。
湊太の名台詞といえば昼の部でも出た6話のあれと、13話のこれだよね。

そんな役者魂を感じさせる石川界人が選んだのはこはるのこの台詞。

「いらっしゃいませ~」

「っしゃあ!」(ガッツポーズをとる石川プロ)
ダメだこの湊太……はやくなんとかしないと……と思ったところでこはるのキャラクターについてのマジメなお話が始まる。こはるの台詞は安定感があり、同時に深い味わいもある。それは彼女の同じ一言が、その瞬間のこはるを映し出す鏡となっているからだ。笑ったやつはわかってないぜ。by石川プロ。

そんな母性溢れるこはるを演じた佳村さんが選んだのは、汐音のあの名台詞。
「長い長い長い長い!!」小松さんが叫ぶ。
ずらずらずら~っとスクリーンを埋め尽くす文字列にキャスト観客一同、爆笑。小松さんももう笑うしかない。よ、佳村さん、厳しい……

「私のよく知っている乃々香っていう女の子は、一度こうしたいって決めたら絶対に最後まで譲らないような、まっすぐで、素直で、そんな言葉にいつの間にかみんなの心が動かされていく。私の知っている友達は、そういう女の子だったはずだけど。違った?」 (13話)

膝立ちでステージ前のミニモニターを注視しながらの熱演。長台詞お疲れ様でした。
小松さん自身、このシーンの汐音には若干の救世主感を覚えていたという。思い…出して。

そして小松さんが選んだのはノエルのフィニッシュアーツ。

「ただいま!」(13話)

「お帰りぃーッ!! お帰りノエルゥウーーッッ!!」
バグったイントネーションで叫びながら石川プロと小松さんが椅子から転げ落ちた! あれは……ドゲザ! 2人並んで水瀬さんにドゲザしている!
いやでも崇めたくなるのはすっげーーわかる。水瀬さんドン引きだけど。

気を取り直した水瀬さんが選んだのは乃々香の一言。 

「ノエル~!」

ののか~!
……あれ、この人、昼の部で「ののか~!」を選んでなかったか?
チョイスがイノセントすぎるぞ、いのすけ。
たしかに「乃々香ー」「ノエルー」のやりとりは多い。夏川さんはひどいとき、収録中にノエルがだんだんゲシュタルト崩壊していったらしい。やたらノエルと呼ぶ回数の多い話があったとか。何話だろう……


②ネットで実施した名シーン投票の結果発表
昼の部では「切ない名場面」が計4シーン+1シーン発表された。以下に記す。

2-1,花織との約束(13話)
とても悲しいシーンで、個人的にどうしても物申したいところでもあるのでシーン丸ごと書き起こす。

夕暮れが染める湖のほとり、約束のベンチの前で乃々香と汐音は立ち止まる。汐音は先に腰をかけて、あの鼻歌を歌い始める。
乃々香もゆっくりと横にかける。二人は目を閉じて鼻歌を歌う。
―――
回想。7年前、乃々香の家。
揺り椅子にかけた花織が鼻歌を歌っている。花織の膝に腕を乗せて、膝立ちで向き合う乃々香に、花織は優しく話しかける。
「乃々香。母さんと約束して?」
「?」
「これから先、乃々香は色んな体験をして成長していくの。その中には、悲しいことがあったり、辛いことがあったりするわ。でもね、そんなときこそ、そんなときだからこそ、ありったけの笑顔でニッコリ笑うの。そうすれば、どんなことでも乗り越えられるから」
「どんなことでも?」
「ええ。乃々香ならきっと」
「うん。約束」
乃々香と花織は額をくっつけて微笑みあう。

花織の言葉は要約すれば「悲しいとき、辛いときだからこそ笑え」である。
これにはひとつ、大切なプロセスが抜け落ちている。「泣いてもいい」だ。

乃々香は母を喪失した痛みに耐え切れず、過去そのものを忘れてしまうわけだが。
……これは推測だが、おそらく乃々香は花織が亡くなった後、泣きながら「約束を守らなければ=笑わなければならない、泣いてはならない」と思っていたのではないだろうか?
母親をなくした幼い子どもが、泣きたいのに笑わなければならない。母との約束を守るために。そんな辛い板挟みにあったから、楽しかった日々も悲しかった思い出も、丸ごと全部記憶の底に沈めてしまうまでに追い詰められてしまったのではないか、と。
私はそう考えている。


2-2, 柚季の謝罪(5話)

「違うの。謝らないといけないのは、悪いのはーー!」

桟橋を照らす灯篭に柚季の心が解けていく、天体のメソッド屈指の名シーン。
このシーンが選ばれたとき、私は正直ほっとした。
水坂柚季の物語は『天体のメソッド』ファンに対する一種の指標ともいえる。柚季の文脈ははっきり言ってわかりにくい。話が決着する第5話自体も非常にテクニカルな構成だ。心情を理解できるか否か、その時点で適当な見方をしている視聴者は一気にふるいにかけられる。その上でさらに共感できるか否かが試される。ここでさらに半分か。
そこまでステップを踏まなければ柚季を好きになるのは難しいし、下手したらその後の物語にも通底する「想いの共有」というテーマに気が付けないかもしれない。裏を返せば、柚季と5話が好きなファンは本当に天メソが好きなんだな、と信頼できる。
そんなファンが数多くいたことをこの結果は証明した。ただひたすらに嬉しい。
まあ私は別のシーンに投票したのだが。いや、迷ったんですよ……本当にごめんなさい……

キャスト陣は見ているだけで泣きそうになると少し困った様子。特に夏川さん、けっこう危なそう。


2-3, 汐音との再会(12話)

「私が覚えてるのは、流星群の夜に見た、あの子の涙」

 星屑のインターリュードの入りが冴え渡る至高のワンシーンだ。吹き抜ける風が天文台の草葉を揺らし、夏川さんのもとにスタッフからティッシュが運ばれる。
夏川さん、軽く泣いてしまった。「まだレベル2」とか言っているが、大丈夫ですか。


2-4, 天文台でのノエル「みんな大好き!」(11話)

「ノエルのこと。絶対に忘れないから」
「ノエルも忘れない。乃々香がたくさんたくさん素敵なものをくれたこと」

映像は乃々香とノエルが、望遠鏡を挟んで向かい合ったところから始まる。
望遠鏡の左側には乃々香と、町を出て行く湊太と汐音。右側にはノエルと、町に残る柚季とこはるが立っている。ノエルは乃々香に語りかけながら、ゆっくり左へと歩いていく。

「ごめんなさい。あたしは、ニッコリしないと、ダメなのに。絶対、絶対ダメなのに。ごめんね、ノエル」

「絶対、絶対ダメなのに」。
崩れ落ちた乃々香の言葉は強迫観念めいていて、どうしようもなく悲しくなる。乃々香はいったい何を、本当は誰に謝っているのか。どうして別れのときに泣いてはならないのか。単に「みんなニッコリ」「ニッコリでお別れ」というノエルの願いを叶えるためなのか。

……先の話に戻ると、花織が教えるべきだったのは「辛いときだからこそニッコリ笑おう」ではなくて「辛いときにはいっぱい泣いてもいいけれど、その後で少しずつその悲しみを乗り越えて、最後にはニッコリ笑おう」という「流れ」だったのではないだろうか…….。*1

「謝らないで、乃々香」
「乃々香。お母さんの言葉、覚えてる?」

泣きじゃくる乃々香を優しく許すノエルと、言葉で支える汐音。泣くのを止めて立ち上がった乃々香を見て、ノエルはニッコリと笑い、目の前の5人に言う。

「乃々香、汐音、柚季、湊太、こはる。みんな大好き!」

ちなみに夏川さんはレベル3に達してティッシュで大変なことになっていた。


2-α, ノエルとの別れ

「あれ……。嬉しいのに……すごく嬉しいはずなのに。みんなが、ニッコリで、ノエルは、みんなのことを……どうして止まらないの? あふれてくるの?」

これしかないよなあ……。
自分の中に芽生えていた自分自身の願いにノエルが気付いてしまうシーン。ぽつんと5人を後ろから見つめる、その立ち位置がすべてを描き出している。同じように桟橋で離れて見ていた5話との対比も完璧すぎるし、問答無用で感情を破壊しにきていた。放送後、思わず外に飛び出してふたご座流星群を見上げて号泣したファンも多いはずだ。*2
このシーンは投票サイトにピックアップされていた選択肢にはなかったのだが、選択肢以外のシーンを自由記入で投票可能だったところから数多くの票を集めたらしい。私も入れた。これしかなかった。

石川プロ「夏川さん泣きすぎでしょ」
夏川さん「界人くんだってズビズビしてたじゃん!」
石川プロ「やめてくださいよぉ年上だから我慢してたのにぃ///」


③BD7巻映像特典・オリジナルショートアニメの一部紹介
昼の部の記事で書いたため省略。汐音の身辺調査ですかねえ……?


④『そらメソラジオ』でやっていたコーナー(そうさ! ソーサー捜査)の拡張版
お題は天文台。ジンギス丸(なんというか、コケの生えた異臭生命体としか)はさておいて、3対3のチーム戦で、組み合わせは夏川さん・豊崎さん・佳村さんと、小松さん・水瀬さん・石川プロ。

まずは佳村さんVS小松さん。ゲームは剣玉、制限時間は10秒。佳村さんは健闘するも、小松さんがどうにか勝利を収める。

続いて豊崎さんVS石川プロ。
「湊太には、絶対負けないんだから」
「柚季に負けるわけないだろ」
水坂兄妹、アツい。
ゲームは傘のバランス対決。劇中でノエルが傘代わりにしていたあの蓮の葉を手のひらに乗せて、5秒落とさなければOK。
先攻は豊崎さん。難なく5秒をクリアする。傍目から見てもバランス良い。ふらつきもしなかった。
後攻、開始前に傘を手のひらに乗せる石川プロ。
「えっもう始めるの」
「えっ」
石川プロが戸惑った瞬間スタートのゴングが鳴った。驚いた拍子にバランスを崩し、倒れる葉っぱを追ってプロは舞台袖に疾走していく。2秒ももたない。これはひどい

ラストは夏川さんVS水瀬さん。
ゲームはジェスチャー当てクイズ。味方チームの2人が演じているものを見事言い当てられたらOK。
まずは夏川さんから回答することに。お題は「フリスビーをキャッチする犬」。
ゲーム開始。なぜか自然に豊崎さんが犬、佳村さんが人間役になった。豊崎さん、迫真の犬っぷり。だらしなく口をあけて四つんばいで床を駆けずり回る豊崎愛生さんを見られるのはきっと『天体のメソッドプレミアムイベント』くらいだろう。世界は生きるに値する。
夏川さんは犬、フリスビーとかなりいいところまで当てていたのに時間切れ。判定厳しくないっすか。
そして後攻、水瀬さんが回答者となる。お題は「カラオケをする宇宙人」。うん、ワケがわからないぞ。
ゲーム開始。エアマイク片手に、もはや筆舌に尽くし難いぐねぐねとした踊り(本当に文章で表現できない)を繰り出す石川プロと小松さん。とくに石川プロのほう、いよいよぶっちぎれてきている。
あやしいおどりにMPを削られて水瀬さんは困惑するばかり。なんか今日そんな役回りばかりですねって感じだ。
時間切れ。

ゲームが終了し、同点のため観客の拍手で決めることに。
結果、石川プロチームの勝利。つよい。
景品は天文台をモチーフにしたスイーツ。なかなかに高そうなキューブ型のシュークリームだ。後でみんなで頂くことが決まる。

石川プロ「鼻の頭びっちょびちょ」


⑤fhánaとLarval Stage Planningのライブ
構成は昼の部と同じ。fhánaからは『星屑のインターリュード』『ソライロピクチャー』『ホシノカケラ』『天体のメソッド~Quote from Stardust Interlude~』、LSPからは『North Method』『Stargazer』。曲順もまったく同じだ。
昼の部よりもずいぶんステージから離れてしまったけれど、2階席は1階席と違って段差が高いので、後ろの視界を遮ってしまう心配もない。サイリウムを鞄から取り出し、青いライトを点らせた。
fhánaへのインタビューが終わり、曲が始まる。高所から俯瞰してみると、観客のサイリウムの動きから舞台効果まで全体をよく見渡せる。
昼のライブでは『天体のメソッド』の物語そのものを再体験していた私だが、今回はそれと並行して、よりマクロな意味で、作品を観ていたときの感情が再生されていった。

当たり前だが、今この新宿文化ホールにいるファンの多くは、同じものを見てきている。
『天体のメソッド』は少なからず風当たりの強い作品だった。今でも世間的には高評価されているとは言い難い。どちらかといえば罵詈雑言のほうが目に付く。
放送中は心無い野次に憎悪を燃やしたことも幾度となくあった。単語ひとつにムカっ腹が立ってどうしようもなくなる夜もあった。
自分以外他に誰も好きでなくたって、自分が好きならそれでいい。
そんな思いを胸に、何度も何周も視聴した。全13話を文字に起こした。足りない頭で登場人物の文脈を可能な限り読み取った。考察もどきの文章もこっ恥ずかしい妄想も書いた。
けど、この作品を愛している人はたしかにいた。数え切れないくらいいた。
夏川さんにスタンド花を贈ったファンの方々がいた。最前列で向日葵の花束を抱えている人がいた。出演者へのプレゼントボックスに、手紙から差し入れまで、思い思いの品を入れる人がいた。
自分以外他に誰も好きでなくたって、自分が好きならそれでいい。
それは決して間違いではないと思うけれど、自分が最高に好きな作品に同じ想いを抱いている人がいるのは、本当に嬉しいことなんだと、今さらそんなことを思った。
それはたぶん、誰かと一緒にきれいな景色を見たり、美味しいご飯を食べたりしたときの感覚と同じものだ。

「誰かと一緒だったら、何だっていうの?」
「ぽかぽかするー」

『Quote from Stardust Interlude』を聴きながら、11話放映直後のことを思い出していた。リアルタイムで流星群が降り注いだあの冬の夜。はっきり観測できたのは、たしか5つか6つ。このクソ寒い星空の下におんなじようなやつはどれくらいいるんだろうなあ、とか思ってもいたような気がする。

『天体のメソッド』という作品に感動しているのか、場の雰囲気に酔っているのか、よくわからなくなってきていた。
たぶん両方なんだろう。全部まとめて『天体のメソッド プレミアムイベント』という作品に感極まってしまっている。

fhánaからLSPにバトンタッチ。
ここにいる人の殆どは同じ風景を共有していて、同じものに気持ちをもらっている。
美しいものを見て、幸せになっている。
これが善でなくてなんだというのか。

世界よ、善くあれ!
尊くあれ!
もっともっと、きれいであれ!
取り落とさないよう気をつけながら、痺れる腕でサイリウムを振った。遠のいた距離がもどかしくて、余計に力が入っていた。青い光が歌手に観客に飛んでいって、何かを与えてくれればと願った。何せ私は単純だから、昼の部でtowanaさん(fhána)と桐島さん(LSP)がサイリウムをきれいだと言っていたのを真に受けているのだ。んなもん見慣れているに決まっているのに。
見知らぬ誰かの幸福を祈った。祈れた。
汗が目尻につたい、涙と判別がつかなくなる。世界が青くぼやけていく。そこに人がいることがただ本当に嬉しかった。


⑥〆のキャストコメント
キャストの全員、fhánaのメンバー、桐島さんが次々にコメントしていく。
もう完全にくらくらしていた私にとどめを与えたのは豊崎愛生さんのコメントだった。細かい言葉尻は間違っていると思うがここに記しておく。

「皆さん明日は仕事や学校かもしれません」
思わず会場の誰もが笑ってしまう。現実に引き戻すかのような一言。
「やってられないと思うときもあるかもしれません」
一瞬、私はおや、と思う。
「けど、泣いてもいい。怒ったり泣いたりして、気持ちをぶつけてもいい。その先に、本当の気持ちがあるから」
このあたり、ちょっとショックで細かく聞き取れなかった。
「そして、そんなときは思い出してください。みんなのニッコリを手助けしてくれる、この作品のことを」

頭をハンマーで打ち抜かれたような衝撃が走っていた。
古宮花織。古宮花織だ。豊崎さんのコメントはあの約束の本当の意味を完璧に汲み取っていた。おそらく何の意図もなく。
その言葉は、素直になれなかった柚季を、大人になるしかなかった湊太を、涙を隠そうとしたこはるを、傷つくことにおびえていた汐音を、想いを押し殺した乃々香を、願いに気付けなかったノエルを。そして、約束の意味を伝えきれなかった花織を。
『天体のメソッド』を包括する。

これが声優か。
登場人物の内側でずっと作品を見つめ続けた人の口から、自然に出てくる言葉なのか。
たぶん大した意味はない豊崎さんのそのたった一言に、私はもうめちゃくちゃに感動してしまって、また両目に熱いものが滲んで、閉じていく幕に向かって狂ったように拍手していた。「ありがとおー! ありがとぉおー!!」と壊れたみたいに叫んでいた。
fhánaの和賀裕希さんとまったく同じ感想だった。「すべてのスタッフと久弥直樹さんに感謝を」していた。
こんなかけがえのない、キラキラした、こう「絆」とか「友情」とか安易に表現した瞬間、大切な何かが単語の外にこぼれ落ちてその輝きを損ねてしまいそうな、そんな美しいものを美しいまま示してくれた、表してくれたこの作品のすべてに。
その存在を信じさせてくれた、ノエルという形に。

小松さんは言った。「私たちの空にノエルはいる」と。
いるわけない。でもいるんだ。いるったらいる。たとえ私に見えなくたって、赤の他人にしか訪れない存在なのだとしても、この空の下にノエルはきっといる。
それを祈って生きられる。
きれいな風景は、幸せそうな人の姿は、それを描いた創作物は、私に世界を祈らせてくれる。

ホールを出た私は満身創痍だったが、心はこの上なく満ち足りていた。


以下、会場の展示物。

f:id:n_method:20150428074930j:plain

f:id:n_method:20150428075000j:plain
霧弥湖グッズ。洞爺湖の露、一度飲んでみたい。

f:id:n_method:20150428075059j:plain
全13話台本。10話表紙のヤバさがおわかりいただけるだろうか。

f:id:n_method:20150428075235j:plain
円盤クッション(コレジャナイ)。同じクッションならキャラクターの柄よりもこっちをグッズ化してほしかった。超欲しい。

f:id:n_method:20150428210254j:plain
雄大な自然を臨む北海道、夏の霧弥湖へようこそ! 行きたいなあ……

f:id:n_method:20150428210712j:plain
円盤歓迎! BD7巻での活躍、楽しみにしてるぞ、キリゴン。

f:id:n_method:20150428210848j:plain
アニメ絵立て看板夏服ver。こはる、きゃる~んって感じだ(意味不明)。

f:id:n_method:20150428211119j:plain
アニメ絵立て看板冬服ver。てへぺろノエル。

f:id:n_method:20150428210905j:plain
QP:flapper絵立て看板。
どれも天体のメソッド展やインフィニットショップにも飾られていたものだ。
ちなみにこれらの立て看板、天体のメソッドフェアのハズレ抽選券100枚で入手可能だったもの。10万円になります。




続いてはおみやげ。
まずはクリアファイルから。来場者特典①A4クリアファイル&インフィニットショップ1000円以上お買い上げ特典。

f:id:n_method:20150428213055j:plain
インフィニットのほうの絵柄は柚季だ。ヨッシャ。
来場者特典クリアファイルはプレミアムイベントのキービジュアル。会場限定販売だった(予約したぞ!)B2タペストリーの絵柄にもなっているこのイラスト、背景は新宿御苑とのこと。また聖地がひとつ増えてしまった。

続いて来場者特典②生原動画&インフィニットショップ3000円以上お買い上げ特典。

f:id:n_method:20150428212456j:plain
原動画はこはると汐音。ラバーストラップはこはるだった。
……誰が出てもヨッシャってなってるな、私。みんな大好き。誰が一番とか決められない。

ちなみに描かれている場面は以下の通り。

f:id:n_method:20150428223451j:plain
1枚目は3話アバン。乃々香の頬を打つ柚季を見て息を呑むこはる。
切り取られた形跡が不思議だったんだけど、汐音がいたのか……

f:id:n_method:20150428223617j:plain
2枚目は8話クライマックス。
道理でいい表情をしていらっしゃるわけで。



おわり。
夢のようなイベントだった。収録されたBlu-rayないしDVDが販売されることを切に願う。

 

*1:もっとも、自身の死期を悟って、必死の思いで幼い娘と難しい約束を取りつけた節のある花織を積極的に責める気には到底なれないのだが……ただ純粋にやるせない悲劇だ。

*2:2014年12月14日、TOKYOMXでの放映は選挙特番のため前倒しになり、20時30分からとなった。そしてその当日に訪れたふたご座流星群のピークタイムは放送終了直後の21時だった。奇跡としか言いようがなかった。

『天体のメソッド プレミアムイベント』に行ってきた(昼の部)

最高だった。この作品に会えて良かった。

13時。昼飯のラーメンをしこたま食べた私は新宿駅のダンジョンを抜けて、新宿文化センターへと向かっていた。
アニメのイベントというやつに出るのは実のところ初めてで、さして期待はしていなかった。演じた声優が喋るということにあまり興味がなかったのだ。軽く見ていたともいえる。
ならなんでイベントに出たかって、『天体のメソッド』という作品がブログのタイトルの由来にするくらいに大好きだからだ。
お布施とライブと会場限定グッズが目当てのイベント参加。会場に着いてインフィニットの物販列に並んだ私は「天メソイベントなう」あたりのクソツイでも呟こうと何気なくTwitterを開いた。そしてそれが目に飛び込んできた。

 


 「えっ」
思わず声が出た。後ろに並んでいる人に変な目で見られた気がするが気にしない。
どういうことだろう。今回の天メソイベントはそもそも抽選応募者全通疑惑(私が確認した限りでは1人外れていた方がいたが)があるくらい来場者が少ないはずのイベントで、その上一般販売分の在庫と昼公演・夜公演チケットを持っている人用の在庫はあらかじめ分けてあるはずで、なのにどうして……
困惑している間にも並びは進んでいき、気がつけば売り場前。ひとまず訊くだけ訊いてみる。
「B2タペストリーって在庫もうありませんか?」
「申し訳ございません……」

f:id:n_method:20150426233539j:plainけっこうな死にたさを抱えて何のグッズも買わないまま自分の席へ行った。
昼の部は1階4列。かなりの好位置だが、肝心のテンションはちょっとばかりしぼんでいる。というか、会場人多いな。9割以上席埋まってるぞ。
気を取り直す。
決して、キャストトークに対してまったく興味がないというわけではない。公式ファンブックのインタビューを見る限り作品をしっかりと読み込んでいるのは明らかだ。きっと何か発見がある。
何よりまだライブがある。fhánaの生歌だ。星屑のインターリュードだ。
物販なんて最初からなかったんだって、何度も、何度も自分に言い聞かせて。
イベントは始まった。

昼の部の構成としては
①キャストによる自分が演じたキャラの好きな台詞
②ネットで実施した名シーン投票の結果発表
③BD7巻映像特典・オリジナルショートアニメの一部紹介
④『そらメソラジオ』でやっていたコーナー(そうさ! ソーサー捜査)の拡張版
⑤fhánaとLarval Stage Planningのライブ
⑥〆のキャストコメント

といった流れ。
MCは古宮乃々香役の夏川椎菜さんと、ノエル役の水瀬いのりさん。夏川さんは髪を乃々香のように片方にあげてまとめていた。恐ろしくさらさらの黒髪だった。

石川界人(水坂湊太役)と化粧水・その後の肌の調子や、水瀬いのりさんの推しお米「ゆめぴりか」の話などをはさみながらコーナーは進行していった。


①キャストによる自分が演じたキャラの好きな台詞
まずは夏川椎菜さんから。本人による生演技だ!!

「私の願いは……みんながにっこりになること」(11話)

……納得だ。ぐうの音も出ない。
決意した乃々香が汐音の家でみんなの特徴を並べて、汐音の本質を告げ、自分の願いを語るシーン。この後「ノエルが素敵だって言ってくれたその願いの中には、汐音のにっこりも入っているんだよ」と続く。普通にきゅんとくる。私はきゅんときた。

次は豊崎愛生(水坂柚季役)さん。

「ありがとう」(2話)

 ……完璧だ。ぐうの音も出ない。
6話の「ありがとう」、キャラクターソングアルバムのモノローグ『柚季から乃々香へ』での「ありがとう」を踏まえるとぐんと味わいが増す。5話の「ごめんなさい」も良いけど、やっぱり「ごめんなさい」より「ありがとう」だよ。
また、豊崎さんがここでぶっちゃける。
「柚季はあまり好きじゃない人いっぱいいると思うんだけど」
おいおいそこ突っ込むの!? とビビりながら話を聞くと、各キャラファンの敵になりやすい柚季だからこそ、自分は逆に良いところを探したらしい。良い人だ。
結果、なんでもまっすぐ、オブラートに包まずに言う子だと捉えたという。
そんな奴が周りにそう居てくれるか? いやいない。
実際、柚季はその持ち前の行動力で6話以降の乃々香、汐音の後押しをする。言わずもがな、柚季のデフォルトはそちらだ。愛生さん、水坂柚季を完璧に捉えている……(公式ファンブックでも似たようなこと言ってたけど、言葉で聞くと重さが違うよね……)

続いては石川界人

「なあ、どう思う? 来年は俺、この街にいないんだぜ? 誘ってくれてもいいと思うよな……」(6話)

佳村はるか「なんかごめん」
他、「いたいよういたいよう、お腹が痛くてしんじゃうよう」(7話)なんかも好きらしい。湊太は時折見せる少年らしさがぐっとキャラに深みを増していて最高だと思う。

で、4番目はその佳村はるかさん(椎原こはる役)。

「だって、私は看板娘なんだから!」(7話)

 石川プロ「こはるーっ! こはるーーっっ!!」
だんだん石川プロのタガが外れてくる。

5番目は小松未可子さん(戸川汐音役)。

「本当に迷惑」(13話など)

 小松さんいわく、汐音の台詞にはだいたいその後ろに(本音)が付くという。
「本当に迷惑(迷惑とは言ってない)」など。文面にするとさっぱり意味がわからないが、観ている人ならわかるのではないだろうか。
それにしてもヘッドホンで乃々香の声を再生している疑惑には参ったな! マジモンのクレイジーレズじゃねーか!

ラストは水瀬いのりさん。

「ののか~!」

ノエル~!
まあ、突き詰めればこの二人で終わる物語だし、すごく正しい選択だ。


②ネットで実施した名シーン投票の結果発表
昼の部では「ニッコリになったシーン」が計4シーン発表された。以下に記す。

2-1, 温泉(6話)
柚季が温泉に浸かっている。
「えっ」
本日二度目のえっである。
正直これは予想外だった。スクリーンに映し出される映像はBD版ではなくテレビ放送版、湯気がもうもうとたちこめている。それでも乃々香の尻はエロい。
ニッコリじゃなくてニヤニヤじゃねーか! と女性キャストは総ツッコミ、一方石川プロはよくやったと大手を振って喜んでいる。なんなんだアンタは。
汐音のバストは豊満だった。

2-2, のぞみ亭でオムライスを食べるノエルと汐音(5話)
ああ、なるほどといった感じ。純粋に可愛いノエルと、面持ちは厳しげなのにやってることはコミカルな汐音のコントラストが眩しいカットだ。ミルクと砂糖を惜しげもなく注ぎ入れる汐音にはキャスト一同ツッコミと苦笑の嵐。そういえば久弥直樹作品のヘンな食べ物要素ってここだけだったね。

2-3, 看板を出そうと入り口で悪戦苦闘するこはると、それを見かねる湊太(1話)
うむ、かわいい。小首をかしげるところとかもう最高なのである。って界人くんが言ってた。同意するしかなかった。
話すうちに佳村はるかさんから一言。「こはるは黒い子ではないのです」
実際、そういう演技指導もあったらしい。ここ大事。

2-4, 13話Cパート
説明不要。
MC2人を除く4人のキャストが突如椅子から飛び出した! スクリーンに映るノエルを抱きしめようと両腕を広げる。
石川プロが「ほんとかわいいなぁ……」と嘆息して水瀬さんが軽く引いていたことは書き留めておきたい。


③BD7巻映像特典・オリジナルショートアニメの一部紹介
まだ声当てもしていないらしい。
非常に断片的で短いため説明が難しい。適当に箇条書き。
・タイトル『ある少女の休日』
・探偵風の乃々香たち。牧場にいる? 何かを調査している? こはるはメガネ着用
ゴジラめいたキリゴンが映る
・汐音の後ろ、湖沿いの路地にキリゴンの看板。追いかけているような?
・ノエルは映る
・湊太は映らない

石川プロ「(´・ω・`)」
つらいな……円盤のジャケットになれるかどうかが湊太の分水嶺


④『そらメソラジオ』でやっていたコーナー(そうさ! ソーサー捜査)の拡張版
お題はホットケーキ。くじで引いた道具を使って、2人1組でホットケーキ型のクッションをひっくり返していく。
思いの他苦戦せずに全員がひっくり返し、裏面の文字を組み合わせる。
文字列ができあがる。「こっそなみりん」もとい「みんなこっそり」。
……ガチで準備ミスかと思ったが、なんかこれで合っているらしい。
一番活躍した人を拍手で決める。石川界人、ナンバーワンになってしまった。あんま活躍はしてなかったような……まあいいか
景品はなんか厚手のスイーツ系ホットケーキ。後で食べることに。


⑤fhánaとLarval Stage Planningのライブ
1曲目は『星屑のインターリュード』。トリを飾ると思っていたのでこの選択には驚いた。
向こう10年はこれ以上のアニメソングは出ないんじゃないかと思える名曲中の名曲。スクリーンの映像とともに、思い起こされるのは最終回の夢心地と虚脱。
あの時からここまで心の中に残っていた作品が、今地続きにつながって、止まっていた時が動き出すような錯覚。
音響が轟く。心臓を直接叩かれるような振動が走る。映像が音楽が声が表情が、頭を、身体を、じーんと強く痺れさせる。これが至近距離のライブ……前列のライブ……

「綴った手紙はそして空一面に今散らばった」

towanaの透き通った声がホールの空に伸びていく。天井など知らぬとばかりに。多くの観客の青いサイリウムが頭上にすうっと掲げられる。自分がサイリウムを持っていないのをこんなに後悔した日はない。
その後も、『ソライロピクチャー』、7話特別ED『ホシノカケラ』と続き、最後はライブでは初演奏となる11話特別ED『天体のメソッド ~Quote from Stardust Interlude~』。この頃には私はもう参ってしまっていて、膝ががくがく笑っていた。それでも一分一秒をなるべくこの身に吸い込もうと、やっきになって手を振っていた。
歌手が変わり、続いてはOPを担当したLarval Stage Planning。まずは13話挿入歌『North Method』。映像は勿論13話ベース。
楽曲による作品の再体験はここで終わりを迎える。そしてライブの、イベントの最後となる曲は、OP『Stargazer』だった。

放送は終わった。イベントも終わる。BD7巻が発売すれば、きっと作品の展開も終わる。終わってしまう。
けれど、だからこそ、だろうか。〆は『Stargazer』なんだ。きっと、この曲でなければならなかったんだ。そう強く思う。
それは5人がノエルと再び出会えたように。忘れなければ、そこに『天体のメソッド』はあると。
終わってしまうのなら、また始めればいいと。
作中で関係性の切断と再縫合を描き続けてきた『天体のメソッド』は、最後の最後、このイベントで、受け手と作品の関係にそのテーマを突きつけてきた。

こんなの、心に残らないほうがおかしい。


⑥〆のキャストコメント
誰もが良いことを言っていたんだけど、もはや覚えていない。
水瀬いのりさんが、何度も観てほしい、と言っていたのは覚えている。



昼の部が終わり、ふらふらと会場を出た。
これがアニメのイベント……カルチャーショック……これは高いチケット代を払っていく人が多いのも頷ける。
私は何気なくTwiterを開いた。そしてその知らせを見た。

世界は生きるに値する。