変わらないものを見つけるために ~放課後のプレアデス第7話『タカラモノフタツ 或いは イチゴノカオリ』読解~

放課後のプレアデスを観ていると毎週精神が崩壊寸前までいくのだけれど、今回またしても最高に過ぎるやつで文が長くなってしまったのでたまにはこちらに書く。


・あおいがすばるに覚える不安

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「あおいならすばるのことなんでもわかると思ってたよ」
「……そんなわけないよ」
「すばるちゃん、なんだか変わったみたい」

2話以降、あおいは目の前のすばるが自分の知るすばるなのだと盲目的に信じてきた。しかし、6話ですばるが自分を守ろうとしたこと、何も言わずに突然園芸部に入ってしまったことを受けて、再び不安を覚えはじめる。

2話ラストで、あおいはすばるにこう告げた。
「今度またあいつが来ても、すばるは私が守る」
この言葉が表すように、あおいの知るすばるとは、自分が守ってやらねばならない弱々しい存在、庇護対象に他ならない。
6話のときのように、自分を守るために体を張る強い存在などではない。

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あおいはすばるを元気づけるのに加えて、すばるが自分の思い描くすばるであること、変わっていないことを確かめるために、以前(2話)それを確認できたいちご牛乳を手渡す。
そして昔のように、ぽんとすばるの頭に手を置く。
「一緒に探すからさ、ひとりで抱え込むなよ」

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みなとのことを話すうちに泣き出してしまうすばる。その姿を見て、あおいは自身の思いを吐き出してしまう。
「すばる……なんで黙ってたんだよ。言ってくれたらよかったのに」

今度は1話の序盤を思い返してみたい。
バス停近くで友人と喋る「元の世界のあおい」に、すばるは声をかけられなかった。もしきちんとしたお別れをできていたなら、ひょっとしたら声をかけられたかもしれない。少なくとも、あんなにも切ない光景にはならなかっただろう。
境遇はあおいも同じだ。
彼女たちふたりは別れてしまった事実と同じくらいに、別れを選んだ理由を伝えてもらえなかったことに対して、強い痛みを感じている。
過去に横たわるその痛みは、お互いを確かめあえた2話以降もずっと棚上げにされたままだ。決してなかったことにはされていない。

そうして今もまたあおいは、園芸部に入ることも、みなとの件も伝えてもらえなかった。
蘇る痛みに耐え切れず、あおいはその場を逃げ出してしまう。

行き着いた先、校内で、あおいはひとり自分を責める。
「変わりたいって思ったんだ。だからここにいるはずなのに。結局同じことを繰り返してる」
あおいの自己嫌悪は、黙っていたすばるに怒ってしまったからだろうか。
それとも、すばるの成長を認められない、小さな自分への憤りか。

変わっていくすばると変われない自分を見比べて、「すばるは本当に私の知るすばるなのか」「またひとり置いてかれてしまうのではないか」というあおいの不安は、いっそう大きく膨らんでいく。

f:id:n_method:20150523173032j:plain「この学校に温室はないよ」
一方ですばるは、転校生の園芸部員となったみなとと再会を果たす。
しかしみなとは、さながら初対面の人間のようにすばると接する。今のところ理由は不明だが、以前と同じみなとであるという確証を、すばるに持たせようとしない。


・彗星と太陽

f:id:n_method:20150523173326j:plain「なぜこのカケラがこうして彗星の中に取り込まれているのか」
ガス惑星を突き抜けるとかしたせいで凍ってしまったのでは、と会長。
5話においていつきの自戒が土星の輪で表されたように、このカケラを覆う氷はすばるとあおいの今の関係を暗喩する。
彗星ーー大切なものを覆ってしまった現実の塊ーーに力ずくで背中を押され、前に進めばいいのか後ろに戻ればいいのか、わからないままに時間は過ぎて、5人は太陽へと落ちていく。

f:id:n_method:20150523173537j:plain燃え盛るプロミネンス。一旦の離脱。現れる角マント。
バランスを崩したあおいの手をとるすばる。あおいはその手を振り払ってしまう。『自分を支えるすばる』という構図を、その変化を認められない。
「……ごめん」
目を逸らしながら、あおいはすばるに懺悔する。
「自分でもわかってる。このままじゃダメだって。……変わりたいって思ってるのに」
あおいの言葉に顔を歪ませ、すばるは答える。
「私だって!」

すばるとあおいは1話でのように、どうして自分を置いていったのかを互いに問いかけあいながら、カケラに向かって飛んでいく。
無論ふたりとも答えられない。行き場のない感情をぶつけあうことしかできない。
思い出されるのは、別れる前にふたりで歩いた、初めての雪の日のこと。

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「本当は私のこと、ずっと足手まといだったのかなって思って。でも、怖くて訊けなかった」

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「ずっとすばるを助けてたつもりだったけど、ただのひとりよがりだったんじゃないかって、何度も思った」

そしてふたりは同時に気付く。
「私たちは置いていかれたほうなんだよ。だからふたりとも、答えを持ってないんだよね」
すばるの目から涙がこぼれる。炎が2人をさえぎる。
「私たち、一緒にいたかっただけなのに。ここでせっかく会えたのに」

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「ばかすばる! ここまできて迷うことなんてあるのか!」
「ふたりならわかってるはずだわ!」
「寄り添う気持ちで運気上昇」

今、ふたりがお互いを大切に想っているということ。
かつて別れた事実があっても、目の前の彼女が別の世界の彼女であっても、それだけは確かなことだ。
3人の言葉に背中を押されて、すばるは涙を拭う。
「行かなきゃ……行こうよ、あおいちゃん!」
「うん!」

降り積もった雪、彗星の氷が覆い隠した『大切なもの』を、熱い感情の発露と太陽の炎が剥き出しにする。ダイナミックな宇宙の情景ときめ細かい心理描写をシンクロさせた、いかにも本作らしい表現といえるだろう。詩情に満ちた鮮やかな流れが否応なく心に残る。
眼下で噴き盛るプロミネンスを眺めて、あおいはぽつりとこう漏らす。

「まるで炎の上を跳ねてるみたいだ」



・変わる関係、変わらないもの

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角マントの攻撃によろめくすばる。今度はあおいがすばるの手を取る。
ぎゅっと軽く手を握り返すすばると、はっとするあおい。すばるとあおいは目で通じあう。
そしてあおいは手を離す。守らなければと思っていた、その相手の手を。

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『もう離しても大丈夫だよ』という、すばるの想いが聴こえてくるようなシーンだ。
すばるはもう守るべき対象ではない。ともに戦い、守り守られる、対等な親友なのだ。ついに理解したあおいは、すばるにこう問いかける。お前なら当然できるだろ、と、気軽に確認するように。
「すばる、飛べるよな?」
「うん!」

並んでカケラへと向かいながら、ふたりは同じ日の過去を思い出していた。
小学六年生のとき、キーホルダーをなくしたすばるの頭に、あおいは優しく手を置いた。
まだすばるが守られるばかりだった頃のことだ。

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あおいの世界では、キーホルダーを見つけたあおいは、すばるにそれをプレゼントされる。
「いつでも、どこにいても、すばるがどんなに変わっても。変わらない大切なものは、ちゃんとここにある」

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すばるの世界では、すばるはキーホルダーをもうなくさないことを誓った。
「いつだってあおいちゃんは私を助けてくれる。だから私も変わらなきゃ。いつかあおいちゃんを守れるくらいに」

それぞれの過去と想いを胸に、ふたりは信じる。
「私たちは変わっていける」

互いが抱いたその想いは、小学校の頃、すでに相手から受け取っていたものだ。
離れ離れになって、知らない間にお互い成長して、変わってしまった世界の中で、ふたりは再びそれを見つけ出した。
だからふたりは、変わっていけると信じられる。

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プロミネンスにかかったカケラをキーホルダーと重ね合わせて、ふたりは穏やかに言葉を交わす。
「すばるに助けられてばかりじゃいられないからな」
「私だって! あ、でも、あおいちゃんと一緒にいるのはずっと好きだよ」

この、文面だけ見るとまったく脈絡のないすばるの返答。
変わらないものを見つけたすばるの言葉の、なんて頼もしいことだろうか……!
あおいに助けられるばかりの、今まで通りの自分でなくなってしまっても。
逆にあおいを助けられるような、強い自分に成長した後でも。
自分はあおいとずっと一緒にいたいんだよ、と。すばるはそう告げている。

その言葉はきっと、あおいが一番ほしかった言葉だ。

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すばるの頭に伸ばした手を、あおいはそっと引っ込める。
あおいがすばるの頭に手を置くのは、それが昔からのふるまいだからだ。守られるすばると守るあおい。変わらぬ関係を象徴するその行為に安心していたのは、何もすばるだけではない。いちご牛乳を差し出したのと同じ意味合いの行動といえる。
しかし、あおいはそんな安寧から決別する……いや、わざわざ確認する必要がなくなったと言ったほうが正しいだろう。

「どこにいてもどんなに変わっても。すばるはすばるだし私は私だ」

あおいは、自分の知らないところで成長した、変わった幼馴染を認める。
同時に、すばるの内側に変わらないものがあることを確信している。これからすばるがどんどん変わっていっても、それだけは変わらないと固く、強く信じている。
もうあおいに不安はない。

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「そうだよね」
それはもちろん、すばるも同じで。


今回の話はすばるとあおいが絆を確かめあうという一点において、一見2話の焼き直しに見えるかもしれない。しかし、その根底では「変化」に対する正反対のアプローチがなされている。
2話は相手が自分の知っている相手であること、変わっていないことを、いちご牛乳や星めぐりの歌で確かめる物語だった。
一方で今回の7話は、相手が変わってしまうことを恐れずに受け入れる、受容と肯定の物語といえるだろう。
スタート地点に立つための2話と、そこから踏み出すための7話。
「変わる」とは「変わらない」とは一体どういうことなのか。ふたつのプロセスを経て描き出した本作の緻密さ、丁寧さには脱帽するしかない。


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いつきたち3人と別れた後、すばるはキーホルダーの件を切り出す。
取り出したキーホルダーは寸分違わず同じものだった。持ち続けてきた大切なものは、どちらも間違いなく本物だ。
なぜすばるの世界ではすばるが、あおいの世界ではあおいがキーホルダーを持つことになったのか。
その理由にふたりは、やはり同時に気付く。

「私たち、置いていかれたわけじゃないんだ」
「そうだよ、私たちふたりとも、大切な友達から宝物をもらったんだよ」

都合の良い、当人たちにとって気持ちの良い解釈だろう。
けれどそれで正しいのである。ふたりがそう信じているなら、その「答え」が間違いであるはずがない。

目の前の相手とは違う、もうひとりの相手を、お互いに信じられるということ。
なぜなら目の前の相手が、自分を好きでいてくれたから。自分も相手が大好きだから。
それをもう一度、ここで確かめあえたから。

……はたから見て、間違っていると思えるだろうか?


・今一度、いちごの香り

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「あと、これ! 好きだよね!?」
失ったかもしれないものを本当に失わないために、すばるは再びみなとへ向かう。
いちご牛乳を突き出すすばるの態度は毅然としている。自分とあおいをつないだそれが、今度はみなとにつながると信じている。

変わらないものを確かめようとしているのは序盤のあおいと同じなのに、どうしてこうも受ける印象が異なるのか?
それはすばるが、みなとの変化を肯定しているからだ。

「僕は君の知らない僕に変わったかもしれない。ほとんど別人みたいにさ」
「うん、そうかもしれない。でも私、友達に教えてもらったの。だから、」

変わってしまった相手の中に、変わらないものを見つけ出せることを、すばるはもう知っている。「変わってもすばるはすばる、私は私」と笑った、あおいの言葉を覚えている。
見た目も居場所も言動も違う、自分の知らないみなとの中に、すばるは果敢に踏み込んでいく。すばる自身も、強く変わっていくために。

「みなと君はみなと君だよ」

そしてその勇気は、みなとの中に潜んでいた、変わらないみなとを見つけ出す。

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「きみはそうやってまた、どこからか扉の鍵を見つけてくるんだね」




つづく。
……しかしホント、どうなってしまうんだろうかこのアニメ。2010年代に刻まれる傑作だと思うのですが。
毎週がクライマックスで観るたびこころが爆発してしにそうになっている。

『天体のメソッド プレミアムイベント』に行ってきた(夜の部)

 

16時30分。TLにクソツイを放り込んだ私は新宿駅東口前のドンキホーテへとひた走った。
昼の部のステージでイベントなるもののすさまじさを理解した私は、すぐさま現地で夜の部のチケットを調達したのだ。次に手に入れるべきものも理解していた。人生には金と体力を惜しんではならない瞬間がある。
サイリウムはレジ前にあった。15色切り替え可能のカッチョいいやつ。半ば本能で手に取りレジへ。「3207円になりま~す」た、高い。一瞬躊躇うが遅い。購入。
後に調べたがこれ、キンブレというライブ民御用達の一品らしい。電池交換式だし発色・使い勝手もいいのでおススメです、キンブレ。他の知らないけど。
汗をかいたのでコンビニでガリガリ君も買う。

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会場へ帰還して指定された座席に着く。
2階4列目真ん中の段通路沿い。2階席としては悪くないポジション。そういえば2階最前列って関係者とかいるのかな。久弥とか。
サイリウムを確認しているうちに開演5分前となり、乃々香とノエルによるアナウンスがスピーカーから流れてくる。昼の部と同じ演出だ。
「ノエル、これから大事なお話をするから、邪魔しないでね?」
「うん!」
「会場内での録音、撮影は禁止です」
「ぱしゃ……ぱしゃ……」
「もう、ノエル。大事なお話だからもうちょっと我慢してね?……上映中は携帯電話をマナーモードにしていただくよう、お願いします」
「もしもし、ノエルだよー。ぴぴぴぴぴぴ、ぷーぷーぷー」
「開演はじゅヴッ……」
「……」
「……」
「……」
「18時となっていますので、しばらくお待ちください」
夏川椎菜、噛んだ。録音じゃなかったのか。
とんだハプニングに開演前から沸きあがる観客。ナンスコールが途絶えた頃、夜の部の幕が上がった。
「いったい何をしに戻ってきたの?」
昼夜通しで参加した客に冷たく言い放つ小松未可子さん。キレッキレである。

夜の部の構成も昼の部と基本的には変わらない。
①キャストによる自分以外が演じたキャラの好きな台詞
②ネットで実施した名シーン投票の結果発表
③BD7巻映像特典・オリジナルショートアニメの一部紹介
④『そらメソラジオ』でやっていたコーナー(そうさ! ソーサー捜査)の拡張版
⑤fhánaとLarval Stage Planningのライブ
⑥〆のキャストコメント

といった流れ。


①キャストによる自分以外が演じたキャラの好きな台詞
昼の部と異なり、今度は自キャラ以外の台詞を選ぶ形式となっている。昼同様、選ばれた台詞はその場でキャストが演じてくれる、なんとも嬉しいコーナーである。
まずは夏川さんから。選んだのは柚季の台詞。笑いながら豊崎さんがステージ前に立つ。そして台詞がスクリーンに映された。

「私も乃々香がいつも笑ってるの、よく覚えてるな。お母さんもさ、見たいんじゃない? 今の乃々香の」(7話)

これこれって感じだ。乃々香に背中を押されてきた柚季が、今度は乃々香を支えるために言葉をかける。倒置法の効きが最高。
私はこの『天体のメソッド』という物語の最大の悲劇は、乃々香と約束を交わした生前の古宮花織にほんの少し言葉が足りなかった点だと思っているのだけれど(後述)、乃々香の中で花織の言葉が息づいていたからこそ、乃々香は笑顔で柚季たちの背中を押していけたのも事実。乃々香の今を肯定する柚季の言葉は、結果的にその先にいる花織さえも肯定する。
7話はひとつひとつの言葉に様々な意味が織り込まれた、非常に天メソらしい話数だと思う。

続いて豊崎さんが選んだのは、兄・湊太のこの台詞。
意気揚々、というかノリノリで前に立った石川界人は、映し出された台詞を見て思わず「うわ」と苦笑した。「難しいんだよなこれ……」

「ノエルなんて知らない。知らないはずなのに……無視できないんだよ」(13話)

文句なしの名演だった。やっぱりすごいよ石川プロ。
12話以降の湊太は6人の中でも飛びぬけて変化の大きいキャラだ。半ば別キャラと言ってもいい。円盤世界とは異なり、事故のなかった12話以降の世界では、彼は大人になる必要がなかった。だから年頃の男子らしく自分の感情をさらけ出す。
石川プロは12話収録当時「また違った湊太が出てきたぞ!」と頭を抱えたという。キャラの出で立ちや過去を探り出す工程を何度も重ねて、散々悩んだ挙句、素直に思うままの湊太を演じたところでOKが出たらしい。
湊太の名台詞といえば昼の部でも出た6話のあれと、13話のこれだよね。

そんな役者魂を感じさせる石川界人が選んだのはこはるのこの台詞。

「いらっしゃいませ~」

「っしゃあ!」(ガッツポーズをとる石川プロ)
ダメだこの湊太……はやくなんとかしないと……と思ったところでこはるのキャラクターについてのマジメなお話が始まる。こはるの台詞は安定感があり、同時に深い味わいもある。それは彼女の同じ一言が、その瞬間のこはるを映し出す鏡となっているからだ。笑ったやつはわかってないぜ。by石川プロ。

そんな母性溢れるこはるを演じた佳村さんが選んだのは、汐音のあの名台詞。
「長い長い長い長い!!」小松さんが叫ぶ。
ずらずらずら~っとスクリーンを埋め尽くす文字列にキャスト観客一同、爆笑。小松さんももう笑うしかない。よ、佳村さん、厳しい……

「私のよく知っている乃々香っていう女の子は、一度こうしたいって決めたら絶対に最後まで譲らないような、まっすぐで、素直で、そんな言葉にいつの間にかみんなの心が動かされていく。私の知っている友達は、そういう女の子だったはずだけど。違った?」 (13話)

膝立ちでステージ前のミニモニターを注視しながらの熱演。長台詞お疲れ様でした。
小松さん自身、このシーンの汐音には若干の救世主感を覚えていたという。思い…出して。

そして小松さんが選んだのはノエルのフィニッシュアーツ。

「ただいま!」(13話)

「お帰りぃーッ!! お帰りノエルゥウーーッッ!!」
バグったイントネーションで叫びながら石川プロと小松さんが椅子から転げ落ちた! あれは……ドゲザ! 2人並んで水瀬さんにドゲザしている!
いやでも崇めたくなるのはすっげーーわかる。水瀬さんドン引きだけど。

気を取り直した水瀬さんが選んだのは乃々香の一言。 

「ノエル~!」

ののか~!
……あれ、この人、昼の部で「ののか~!」を選んでなかったか?
チョイスがイノセントすぎるぞ、いのすけ。
たしかに「乃々香ー」「ノエルー」のやりとりは多い。夏川さんはひどいとき、収録中にノエルがだんだんゲシュタルト崩壊していったらしい。やたらノエルと呼ぶ回数の多い話があったとか。何話だろう……


②ネットで実施した名シーン投票の結果発表
昼の部では「切ない名場面」が計4シーン+1シーン発表された。以下に記す。

2-1,花織との約束(13話)
とても悲しいシーンで、個人的にどうしても物申したいところでもあるのでシーン丸ごと書き起こす。

夕暮れが染める湖のほとり、約束のベンチの前で乃々香と汐音は立ち止まる。汐音は先に腰をかけて、あの鼻歌を歌い始める。
乃々香もゆっくりと横にかける。二人は目を閉じて鼻歌を歌う。
―――
回想。7年前、乃々香の家。
揺り椅子にかけた花織が鼻歌を歌っている。花織の膝に腕を乗せて、膝立ちで向き合う乃々香に、花織は優しく話しかける。
「乃々香。母さんと約束して?」
「?」
「これから先、乃々香は色んな体験をして成長していくの。その中には、悲しいことがあったり、辛いことがあったりするわ。でもね、そんなときこそ、そんなときだからこそ、ありったけの笑顔でニッコリ笑うの。そうすれば、どんなことでも乗り越えられるから」
「どんなことでも?」
「ええ。乃々香ならきっと」
「うん。約束」
乃々香と花織は額をくっつけて微笑みあう。

花織の言葉は要約すれば「悲しいとき、辛いときだからこそ笑え」である。
これにはひとつ、大切なプロセスが抜け落ちている。「泣いてもいい」だ。

乃々香は母を喪失した痛みに耐え切れず、過去そのものを忘れてしまうわけだが。
……これは推測だが、おそらく乃々香は花織が亡くなった後、泣きながら「約束を守らなければ=笑わなければならない、泣いてはならない」と思っていたのではないだろうか?
母親をなくした幼い子どもが、泣きたいのに笑わなければならない。母との約束を守るために。そんな辛い板挟みにあったから、楽しかった日々も悲しかった思い出も、丸ごと全部記憶の底に沈めてしまうまでに追い詰められてしまったのではないか、と。
私はそう考えている。


2-2, 柚季の謝罪(5話)

「違うの。謝らないといけないのは、悪いのはーー!」

桟橋を照らす灯篭に柚季の心が解けていく、天体のメソッド屈指の名シーン。
このシーンが選ばれたとき、私は正直ほっとした。
水坂柚季の物語は『天体のメソッド』ファンに対する一種の指標ともいえる。柚季の文脈ははっきり言ってわかりにくい。話が決着する第5話自体も非常にテクニカルな構成だ。心情を理解できるか否か、その時点で適当な見方をしている視聴者は一気にふるいにかけられる。その上でさらに共感できるか否かが試される。ここでさらに半分か。
そこまでステップを踏まなければ柚季を好きになるのは難しいし、下手したらその後の物語にも通底する「想いの共有」というテーマに気が付けないかもしれない。裏を返せば、柚季と5話が好きなファンは本当に天メソが好きなんだな、と信頼できる。
そんなファンが数多くいたことをこの結果は証明した。ただひたすらに嬉しい。
まあ私は別のシーンに投票したのだが。いや、迷ったんですよ……本当にごめんなさい……

キャスト陣は見ているだけで泣きそうになると少し困った様子。特に夏川さん、けっこう危なそう。


2-3, 汐音との再会(12話)

「私が覚えてるのは、流星群の夜に見た、あの子の涙」

 星屑のインターリュードの入りが冴え渡る至高のワンシーンだ。吹き抜ける風が天文台の草葉を揺らし、夏川さんのもとにスタッフからティッシュが運ばれる。
夏川さん、軽く泣いてしまった。「まだレベル2」とか言っているが、大丈夫ですか。


2-4, 天文台でのノエル「みんな大好き!」(11話)

「ノエルのこと。絶対に忘れないから」
「ノエルも忘れない。乃々香がたくさんたくさん素敵なものをくれたこと」

映像は乃々香とノエルが、望遠鏡を挟んで向かい合ったところから始まる。
望遠鏡の左側には乃々香と、町を出て行く湊太と汐音。右側にはノエルと、町に残る柚季とこはるが立っている。ノエルは乃々香に語りかけながら、ゆっくり左へと歩いていく。

「ごめんなさい。あたしは、ニッコリしないと、ダメなのに。絶対、絶対ダメなのに。ごめんね、ノエル」

「絶対、絶対ダメなのに」。
崩れ落ちた乃々香の言葉は強迫観念めいていて、どうしようもなく悲しくなる。乃々香はいったい何を、本当は誰に謝っているのか。どうして別れのときに泣いてはならないのか。単に「みんなニッコリ」「ニッコリでお別れ」というノエルの願いを叶えるためなのか。

……先の話に戻ると、花織が教えるべきだったのは「辛いときだからこそニッコリ笑おう」ではなくて「辛いときにはいっぱい泣いてもいいけれど、その後で少しずつその悲しみを乗り越えて、最後にはニッコリ笑おう」という「流れ」だったのではないだろうか…….。*1

「謝らないで、乃々香」
「乃々香。お母さんの言葉、覚えてる?」

泣きじゃくる乃々香を優しく許すノエルと、言葉で支える汐音。泣くのを止めて立ち上がった乃々香を見て、ノエルはニッコリと笑い、目の前の5人に言う。

「乃々香、汐音、柚季、湊太、こはる。みんな大好き!」

ちなみに夏川さんはレベル3に達してティッシュで大変なことになっていた。


2-α, ノエルとの別れ

「あれ……。嬉しいのに……すごく嬉しいはずなのに。みんなが、ニッコリで、ノエルは、みんなのことを……どうして止まらないの? あふれてくるの?」

これしかないよなあ……。
自分の中に芽生えていた自分自身の願いにノエルが気付いてしまうシーン。ぽつんと5人を後ろから見つめる、その立ち位置がすべてを描き出している。同じように桟橋で離れて見ていた5話との対比も完璧すぎるし、問答無用で感情を破壊しにきていた。放送後、思わず外に飛び出してふたご座流星群を見上げて号泣したファンも多いはずだ。*2
このシーンは投票サイトにピックアップされていた選択肢にはなかったのだが、選択肢以外のシーンを自由記入で投票可能だったところから数多くの票を集めたらしい。私も入れた。これしかなかった。

石川プロ「夏川さん泣きすぎでしょ」
夏川さん「界人くんだってズビズビしてたじゃん!」
石川プロ「やめてくださいよぉ年上だから我慢してたのにぃ///」


③BD7巻映像特典・オリジナルショートアニメの一部紹介
昼の部の記事で書いたため省略。汐音の身辺調査ですかねえ……?


④『そらメソラジオ』でやっていたコーナー(そうさ! ソーサー捜査)の拡張版
お題は天文台。ジンギス丸(なんというか、コケの生えた異臭生命体としか)はさておいて、3対3のチーム戦で、組み合わせは夏川さん・豊崎さん・佳村さんと、小松さん・水瀬さん・石川プロ。

まずは佳村さんVS小松さん。ゲームは剣玉、制限時間は10秒。佳村さんは健闘するも、小松さんがどうにか勝利を収める。

続いて豊崎さんVS石川プロ。
「湊太には、絶対負けないんだから」
「柚季に負けるわけないだろ」
水坂兄妹、アツい。
ゲームは傘のバランス対決。劇中でノエルが傘代わりにしていたあの蓮の葉を手のひらに乗せて、5秒落とさなければOK。
先攻は豊崎さん。難なく5秒をクリアする。傍目から見てもバランス良い。ふらつきもしなかった。
後攻、開始前に傘を手のひらに乗せる石川プロ。
「えっもう始めるの」
「えっ」
石川プロが戸惑った瞬間スタートのゴングが鳴った。驚いた拍子にバランスを崩し、倒れる葉っぱを追ってプロは舞台袖に疾走していく。2秒ももたない。これはひどい

ラストは夏川さんVS水瀬さん。
ゲームはジェスチャー当てクイズ。味方チームの2人が演じているものを見事言い当てられたらOK。
まずは夏川さんから回答することに。お題は「フリスビーをキャッチする犬」。
ゲーム開始。なぜか自然に豊崎さんが犬、佳村さんが人間役になった。豊崎さん、迫真の犬っぷり。だらしなく口をあけて四つんばいで床を駆けずり回る豊崎愛生さんを見られるのはきっと『天体のメソッドプレミアムイベント』くらいだろう。世界は生きるに値する。
夏川さんは犬、フリスビーとかなりいいところまで当てていたのに時間切れ。判定厳しくないっすか。
そして後攻、水瀬さんが回答者となる。お題は「カラオケをする宇宙人」。うん、ワケがわからないぞ。
ゲーム開始。エアマイク片手に、もはや筆舌に尽くし難いぐねぐねとした踊り(本当に文章で表現できない)を繰り出す石川プロと小松さん。とくに石川プロのほう、いよいよぶっちぎれてきている。
あやしいおどりにMPを削られて水瀬さんは困惑するばかり。なんか今日そんな役回りばかりですねって感じだ。
時間切れ。

ゲームが終了し、同点のため観客の拍手で決めることに。
結果、石川プロチームの勝利。つよい。
景品は天文台をモチーフにしたスイーツ。なかなかに高そうなキューブ型のシュークリームだ。後でみんなで頂くことが決まる。

石川プロ「鼻の頭びっちょびちょ」


⑤fhánaとLarval Stage Planningのライブ
構成は昼の部と同じ。fhánaからは『星屑のインターリュード』『ソライロピクチャー』『ホシノカケラ』『天体のメソッド~Quote from Stardust Interlude~』、LSPからは『North Method』『Stargazer』。曲順もまったく同じだ。
昼の部よりもずいぶんステージから離れてしまったけれど、2階席は1階席と違って段差が高いので、後ろの視界を遮ってしまう心配もない。サイリウムを鞄から取り出し、青いライトを点らせた。
fhánaへのインタビューが終わり、曲が始まる。高所から俯瞰してみると、観客のサイリウムの動きから舞台効果まで全体をよく見渡せる。
昼のライブでは『天体のメソッド』の物語そのものを再体験していた私だが、今回はそれと並行して、よりマクロな意味で、作品を観ていたときの感情が再生されていった。

当たり前だが、今この新宿文化ホールにいるファンの多くは、同じものを見てきている。
『天体のメソッド』は少なからず風当たりの強い作品だった。今でも世間的には高評価されているとは言い難い。どちらかといえば罵詈雑言のほうが目に付く。
放送中は心無い野次に憎悪を燃やしたことも幾度となくあった。単語ひとつにムカっ腹が立ってどうしようもなくなる夜もあった。
自分以外他に誰も好きでなくたって、自分が好きならそれでいい。
そんな思いを胸に、何度も何周も視聴した。全13話を文字に起こした。足りない頭で登場人物の文脈を可能な限り読み取った。考察もどきの文章もこっ恥ずかしい妄想も書いた。
けど、この作品を愛している人はたしかにいた。数え切れないくらいいた。
夏川さんにスタンド花を贈ったファンの方々がいた。最前列で向日葵の花束を抱えている人がいた。出演者へのプレゼントボックスに、手紙から差し入れまで、思い思いの品を入れる人がいた。
自分以外他に誰も好きでなくたって、自分が好きならそれでいい。
それは決して間違いではないと思うけれど、自分が最高に好きな作品に同じ想いを抱いている人がいるのは、本当に嬉しいことなんだと、今さらそんなことを思った。
それはたぶん、誰かと一緒にきれいな景色を見たり、美味しいご飯を食べたりしたときの感覚と同じものだ。

「誰かと一緒だったら、何だっていうの?」
「ぽかぽかするー」

『Quote from Stardust Interlude』を聴きながら、11話放映直後のことを思い出していた。リアルタイムで流星群が降り注いだあの冬の夜。はっきり観測できたのは、たしか5つか6つ。このクソ寒い星空の下におんなじようなやつはどれくらいいるんだろうなあ、とか思ってもいたような気がする。

『天体のメソッド』という作品に感動しているのか、場の雰囲気に酔っているのか、よくわからなくなってきていた。
たぶん両方なんだろう。全部まとめて『天体のメソッド プレミアムイベント』という作品に感極まってしまっている。

fhánaからLSPにバトンタッチ。
ここにいる人の殆どは同じ風景を共有していて、同じものに気持ちをもらっている。
美しいものを見て、幸せになっている。
これが善でなくてなんだというのか。

世界よ、善くあれ!
尊くあれ!
もっともっと、きれいであれ!
取り落とさないよう気をつけながら、痺れる腕でサイリウムを振った。遠のいた距離がもどかしくて、余計に力が入っていた。青い光が歌手に観客に飛んでいって、何かを与えてくれればと願った。何せ私は単純だから、昼の部でtowanaさん(fhána)と桐島さん(LSP)がサイリウムをきれいだと言っていたのを真に受けているのだ。んなもん見慣れているに決まっているのに。
見知らぬ誰かの幸福を祈った。祈れた。
汗が目尻につたい、涙と判別がつかなくなる。世界が青くぼやけていく。そこに人がいることがただ本当に嬉しかった。


⑥〆のキャストコメント
キャストの全員、fhánaのメンバー、桐島さんが次々にコメントしていく。
もう完全にくらくらしていた私にとどめを与えたのは豊崎愛生さんのコメントだった。細かい言葉尻は間違っていると思うがここに記しておく。

「皆さん明日は仕事や学校かもしれません」
思わず会場の誰もが笑ってしまう。現実に引き戻すかのような一言。
「やってられないと思うときもあるかもしれません」
一瞬、私はおや、と思う。
「けど、泣いてもいい。怒ったり泣いたりして、気持ちをぶつけてもいい。その先に、本当の気持ちがあるから」
このあたり、ちょっとショックで細かく聞き取れなかった。
「そして、そんなときは思い出してください。みんなのニッコリを手助けしてくれる、この作品のことを」

頭をハンマーで打ち抜かれたような衝撃が走っていた。
古宮花織。古宮花織だ。豊崎さんのコメントはあの約束の本当の意味を完璧に汲み取っていた。おそらく何の意図もなく。
その言葉は、素直になれなかった柚季を、大人になるしかなかった湊太を、涙を隠そうとしたこはるを、傷つくことにおびえていた汐音を、想いを押し殺した乃々香を、願いに気付けなかったノエルを。そして、約束の意味を伝えきれなかった花織を。
『天体のメソッド』を包括する。

これが声優か。
登場人物の内側でずっと作品を見つめ続けた人の口から、自然に出てくる言葉なのか。
たぶん大した意味はない豊崎さんのそのたった一言に、私はもうめちゃくちゃに感動してしまって、また両目に熱いものが滲んで、閉じていく幕に向かって狂ったように拍手していた。「ありがとおー! ありがとぉおー!!」と壊れたみたいに叫んでいた。
fhánaの和賀裕希さんとまったく同じ感想だった。「すべてのスタッフと久弥直樹さんに感謝を」していた。
こんなかけがえのない、キラキラした、こう「絆」とか「友情」とか安易に表現した瞬間、大切な何かが単語の外にこぼれ落ちてその輝きを損ねてしまいそうな、そんな美しいものを美しいまま示してくれた、表してくれたこの作品のすべてに。
その存在を信じさせてくれた、ノエルという形に。

小松さんは言った。「私たちの空にノエルはいる」と。
いるわけない。でもいるんだ。いるったらいる。たとえ私に見えなくたって、赤の他人にしか訪れない存在なのだとしても、この空の下にノエルはきっといる。
それを祈って生きられる。
きれいな風景は、幸せそうな人の姿は、それを描いた創作物は、私に世界を祈らせてくれる。

ホールを出た私は満身創痍だったが、心はこの上なく満ち足りていた。


以下、会場の展示物。

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霧弥湖グッズ。洞爺湖の露、一度飲んでみたい。

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全13話台本。10話表紙のヤバさがおわかりいただけるだろうか。

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円盤クッション(コレジャナイ)。同じクッションならキャラクターの柄よりもこっちをグッズ化してほしかった。超欲しい。

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雄大な自然を臨む北海道、夏の霧弥湖へようこそ! 行きたいなあ……

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円盤歓迎! BD7巻での活躍、楽しみにしてるぞ、キリゴン。

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アニメ絵立て看板夏服ver。こはる、きゃる~んって感じだ(意味不明)。

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アニメ絵立て看板冬服ver。てへぺろノエル。

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QP:flapper絵立て看板。
どれも天体のメソッド展やインフィニットショップにも飾られていたものだ。
ちなみにこれらの立て看板、天体のメソッドフェアのハズレ抽選券100枚で入手可能だったもの。10万円になります。




続いてはおみやげ。
まずはクリアファイルから。来場者特典①A4クリアファイル&インフィニットショップ1000円以上お買い上げ特典。

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インフィニットのほうの絵柄は柚季だ。ヨッシャ。
来場者特典クリアファイルはプレミアムイベントのキービジュアル。会場限定販売だった(予約したぞ!)B2タペストリーの絵柄にもなっているこのイラスト、背景は新宿御苑とのこと。また聖地がひとつ増えてしまった。

続いて来場者特典②生原動画&インフィニットショップ3000円以上お買い上げ特典。

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原動画はこはると汐音。ラバーストラップはこはるだった。
……誰が出てもヨッシャってなってるな、私。みんな大好き。誰が一番とか決められない。

ちなみに描かれている場面は以下の通り。

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1枚目は3話アバン。乃々香の頬を打つ柚季を見て息を呑むこはる。
切り取られた形跡が不思議だったんだけど、汐音がいたのか……

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2枚目は8話クライマックス。
道理でいい表情をしていらっしゃるわけで。



おわり。
夢のようなイベントだった。収録されたBlu-rayないしDVDが販売されることを切に願う。

 

*1:もっとも、自身の死期を悟って、必死の思いで幼い娘と難しい約束を取りつけた節のある花織を積極的に責める気には到底なれないのだが……ただ純粋にやるせない悲劇だ。

*2:2014年12月14日、TOKYOMXでの放映は選挙特番のため前倒しになり、20時30分からとなった。そしてその当日に訪れたふたご座流星群のピークタイムは放送終了直後の21時だった。奇跡としか言いようがなかった。

『天体のメソッド プレミアムイベント』に行ってきた(昼の部)

最高だった。この作品に会えて良かった。

13時。昼飯のラーメンをしこたま食べた私は新宿駅のダンジョンを抜けて、新宿文化センターへと向かっていた。
アニメのイベントというやつに出るのは実のところ初めてで、さして期待はしていなかった。演じた声優が喋るということにあまり興味がなかったのだ。軽く見ていたともいえる。
ならなんでイベントに出たかって、『天体のメソッド』という作品がブログのタイトルの由来にするくらいに大好きだからだ。
お布施とライブと会場限定グッズが目当てのイベント参加。会場に着いてインフィニットの物販列に並んだ私は「天メソイベントなう」あたりのクソツイでも呟こうと何気なくTwitterを開いた。そしてそれが目に飛び込んできた。

 


 「えっ」
思わず声が出た。後ろに並んでいる人に変な目で見られた気がするが気にしない。
どういうことだろう。今回の天メソイベントはそもそも抽選応募者全通疑惑(私が確認した限りでは1人外れていた方がいたが)があるくらい来場者が少ないはずのイベントで、その上一般販売分の在庫と昼公演・夜公演チケットを持っている人用の在庫はあらかじめ分けてあるはずで、なのにどうして……
困惑している間にも並びは進んでいき、気がつけば売り場前。ひとまず訊くだけ訊いてみる。
「B2タペストリーって在庫もうありませんか?」
「申し訳ございません……」

f:id:n_method:20150426233539j:plainけっこうな死にたさを抱えて何のグッズも買わないまま自分の席へ行った。
昼の部は1階4列。かなりの好位置だが、肝心のテンションはちょっとばかりしぼんでいる。というか、会場人多いな。9割以上席埋まってるぞ。
気を取り直す。
決して、キャストトークに対してまったく興味がないというわけではない。公式ファンブックのインタビューを見る限り作品をしっかりと読み込んでいるのは明らかだ。きっと何か発見がある。
何よりまだライブがある。fhánaの生歌だ。星屑のインターリュードだ。
物販なんて最初からなかったんだって、何度も、何度も自分に言い聞かせて。
イベントは始まった。

昼の部の構成としては
①キャストによる自分が演じたキャラの好きな台詞
②ネットで実施した名シーン投票の結果発表
③BD7巻映像特典・オリジナルショートアニメの一部紹介
④『そらメソラジオ』でやっていたコーナー(そうさ! ソーサー捜査)の拡張版
⑤fhánaとLarval Stage Planningのライブ
⑥〆のキャストコメント

といった流れ。
MCは古宮乃々香役の夏川椎菜さんと、ノエル役の水瀬いのりさん。夏川さんは髪を乃々香のように片方にあげてまとめていた。恐ろしくさらさらの黒髪だった。

石川界人(水坂湊太役)と化粧水・その後の肌の調子や、水瀬いのりさんの推しお米「ゆめぴりか」の話などをはさみながらコーナーは進行していった。


①キャストによる自分が演じたキャラの好きな台詞
まずは夏川椎菜さんから。本人による生演技だ!!

「私の願いは……みんながにっこりになること」(11話)

……納得だ。ぐうの音も出ない。
決意した乃々香が汐音の家でみんなの特徴を並べて、汐音の本質を告げ、自分の願いを語るシーン。この後「ノエルが素敵だって言ってくれたその願いの中には、汐音のにっこりも入っているんだよ」と続く。普通にきゅんとくる。私はきゅんときた。

次は豊崎愛生(水坂柚季役)さん。

「ありがとう」(2話)

 ……完璧だ。ぐうの音も出ない。
6話の「ありがとう」、キャラクターソングアルバムのモノローグ『柚季から乃々香へ』での「ありがとう」を踏まえるとぐんと味わいが増す。5話の「ごめんなさい」も良いけど、やっぱり「ごめんなさい」より「ありがとう」だよ。
また、豊崎さんがここでぶっちゃける。
「柚季はあまり好きじゃない人いっぱいいると思うんだけど」
おいおいそこ突っ込むの!? とビビりながら話を聞くと、各キャラファンの敵になりやすい柚季だからこそ、自分は逆に良いところを探したらしい。良い人だ。
結果、なんでもまっすぐ、オブラートに包まずに言う子だと捉えたという。
そんな奴が周りにそう居てくれるか? いやいない。
実際、柚季はその持ち前の行動力で6話以降の乃々香、汐音の後押しをする。言わずもがな、柚季のデフォルトはそちらだ。愛生さん、水坂柚季を完璧に捉えている……(公式ファンブックでも似たようなこと言ってたけど、言葉で聞くと重さが違うよね……)

続いては石川界人

「なあ、どう思う? 来年は俺、この街にいないんだぜ? 誘ってくれてもいいと思うよな……」(6話)

佳村はるか「なんかごめん」
他、「いたいよういたいよう、お腹が痛くてしんじゃうよう」(7話)なんかも好きらしい。湊太は時折見せる少年らしさがぐっとキャラに深みを増していて最高だと思う。

で、4番目はその佳村はるかさん(椎原こはる役)。

「だって、私は看板娘なんだから!」(7話)

 石川プロ「こはるーっ! こはるーーっっ!!」
だんだん石川プロのタガが外れてくる。

5番目は小松未可子さん(戸川汐音役)。

「本当に迷惑」(13話など)

 小松さんいわく、汐音の台詞にはだいたいその後ろに(本音)が付くという。
「本当に迷惑(迷惑とは言ってない)」など。文面にするとさっぱり意味がわからないが、観ている人ならわかるのではないだろうか。
それにしてもヘッドホンで乃々香の声を再生している疑惑には参ったな! マジモンのクレイジーレズじゃねーか!

ラストは水瀬いのりさん。

「ののか~!」

ノエル~!
まあ、突き詰めればこの二人で終わる物語だし、すごく正しい選択だ。


②ネットで実施した名シーン投票の結果発表
昼の部では「ニッコリになったシーン」が計4シーン発表された。以下に記す。

2-1, 温泉(6話)
柚季が温泉に浸かっている。
「えっ」
本日二度目のえっである。
正直これは予想外だった。スクリーンに映し出される映像はBD版ではなくテレビ放送版、湯気がもうもうとたちこめている。それでも乃々香の尻はエロい。
ニッコリじゃなくてニヤニヤじゃねーか! と女性キャストは総ツッコミ、一方石川プロはよくやったと大手を振って喜んでいる。なんなんだアンタは。
汐音のバストは豊満だった。

2-2, のぞみ亭でオムライスを食べるノエルと汐音(5話)
ああ、なるほどといった感じ。純粋に可愛いノエルと、面持ちは厳しげなのにやってることはコミカルな汐音のコントラストが眩しいカットだ。ミルクと砂糖を惜しげもなく注ぎ入れる汐音にはキャスト一同ツッコミと苦笑の嵐。そういえば久弥直樹作品のヘンな食べ物要素ってここだけだったね。

2-3, 看板を出そうと入り口で悪戦苦闘するこはると、それを見かねる湊太(1話)
うむ、かわいい。小首をかしげるところとかもう最高なのである。って界人くんが言ってた。同意するしかなかった。
話すうちに佳村はるかさんから一言。「こはるは黒い子ではないのです」
実際、そういう演技指導もあったらしい。ここ大事。

2-4, 13話Cパート
説明不要。
MC2人を除く4人のキャストが突如椅子から飛び出した! スクリーンに映るノエルを抱きしめようと両腕を広げる。
石川プロが「ほんとかわいいなぁ……」と嘆息して水瀬さんが軽く引いていたことは書き留めておきたい。


③BD7巻映像特典・オリジナルショートアニメの一部紹介
まだ声当てもしていないらしい。
非常に断片的で短いため説明が難しい。適当に箇条書き。
・タイトル『ある少女の休日』
・探偵風の乃々香たち。牧場にいる? 何かを調査している? こはるはメガネ着用
ゴジラめいたキリゴンが映る
・汐音の後ろ、湖沿いの路地にキリゴンの看板。追いかけているような?
・ノエルは映る
・湊太は映らない

石川プロ「(´・ω・`)」
つらいな……円盤のジャケットになれるかどうかが湊太の分水嶺


④『そらメソラジオ』でやっていたコーナー(そうさ! ソーサー捜査)の拡張版
お題はホットケーキ。くじで引いた道具を使って、2人1組でホットケーキ型のクッションをひっくり返していく。
思いの他苦戦せずに全員がひっくり返し、裏面の文字を組み合わせる。
文字列ができあがる。「こっそなみりん」もとい「みんなこっそり」。
……ガチで準備ミスかと思ったが、なんかこれで合っているらしい。
一番活躍した人を拍手で決める。石川界人、ナンバーワンになってしまった。あんま活躍はしてなかったような……まあいいか
景品はなんか厚手のスイーツ系ホットケーキ。後で食べることに。


⑤fhánaとLarval Stage Planningのライブ
1曲目は『星屑のインターリュード』。トリを飾ると思っていたのでこの選択には驚いた。
向こう10年はこれ以上のアニメソングは出ないんじゃないかと思える名曲中の名曲。スクリーンの映像とともに、思い起こされるのは最終回の夢心地と虚脱。
あの時からここまで心の中に残っていた作品が、今地続きにつながって、止まっていた時が動き出すような錯覚。
音響が轟く。心臓を直接叩かれるような振動が走る。映像が音楽が声が表情が、頭を、身体を、じーんと強く痺れさせる。これが至近距離のライブ……前列のライブ……

「綴った手紙はそして空一面に今散らばった」

towanaの透き通った声がホールの空に伸びていく。天井など知らぬとばかりに。多くの観客の青いサイリウムが頭上にすうっと掲げられる。自分がサイリウムを持っていないのをこんなに後悔した日はない。
その後も、『ソライロピクチャー』、7話特別ED『ホシノカケラ』と続き、最後はライブでは初演奏となる11話特別ED『天体のメソッド ~Quote from Stardust Interlude~』。この頃には私はもう参ってしまっていて、膝ががくがく笑っていた。それでも一分一秒をなるべくこの身に吸い込もうと、やっきになって手を振っていた。
歌手が変わり、続いてはOPを担当したLarval Stage Planning。まずは13話挿入歌『North Method』。映像は勿論13話ベース。
楽曲による作品の再体験はここで終わりを迎える。そしてライブの、イベントの最後となる曲は、OP『Stargazer』だった。

放送は終わった。イベントも終わる。BD7巻が発売すれば、きっと作品の展開も終わる。終わってしまう。
けれど、だからこそ、だろうか。〆は『Stargazer』なんだ。きっと、この曲でなければならなかったんだ。そう強く思う。
それは5人がノエルと再び出会えたように。忘れなければ、そこに『天体のメソッド』はあると。
終わってしまうのなら、また始めればいいと。
作中で関係性の切断と再縫合を描き続けてきた『天体のメソッド』は、最後の最後、このイベントで、受け手と作品の関係にそのテーマを突きつけてきた。

こんなの、心に残らないほうがおかしい。


⑥〆のキャストコメント
誰もが良いことを言っていたんだけど、もはや覚えていない。
水瀬いのりさんが、何度も観てほしい、と言っていたのは覚えている。



昼の部が終わり、ふらふらと会場を出た。
これがアニメのイベント……カルチャーショック……これは高いチケット代を払っていく人が多いのも頷ける。
私は何気なくTwiterを開いた。そしてその知らせを見た。

世界は生きるに値する。

広がる世界と変わらないもの ~アニメ『きんいろモザイク』『ハロー!!きんいろモザイク』第1話雑感~

「ねえシノ、2人のお姫様はずっと離れ離れなの?」
「そんなことないですよ。いつだって会えますし、ずっと友達です。私達みたいに」
きんいろモザイク12話『きんいろのとき』より)

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「ずっと一緒」を信じさせてくれる作品に弱い。

先日、アニメ『きんいろモザイク』(以下『無印』)の第2期『ハロー‼︎きんいろモザイク』(以下『ハロー‼︎』)第1話が放映された。私は第2期が始まるにあたり既刊4巻および無印アニメシリーズを順番にチェックしたいわゆるクソニワカだが、浅薄な経験を通して最も衝撃を受けたのは原作ではなく、アニメ無印第1話だった。ここではその無印1話および、それを踏まえた『ハロー‼︎』1話についての雑感を綴っていく。

・無印1話雑感

Aパートでは中学生時代の忍・陽子・綾が一緒にいる様子を描いた後、ホームステイした忍のイギリスでの一週間がたっぷり時間をかけて描かれる。
緑豊かな牧草地、レンガ造りの街並みに家々。内装も日本家屋とは一味違う。水彩画のような淡く美しい世界の中で、光と自然に彩られたアリスとの日々は喜びに満ち溢れている。
忍とアリスのいるイギリスの風景は、正直私には半ば現実感を喪失しているようにすら見えてしまった。あまりにも幸せすぎた。「現実にこんなハッピーな場所があるのか……?」みたいな。
まさに夢の国というか、表題通りの『ふしぎの国』だった。

とはいえ、忍の世界はあくまで現代日本。ホームステイの日々はたしかにあった楽しい思い出だけど、非日常でしかありえない。
この、忍が地に足をつけて生活していた日常=世界に変化が生じるのがBパート、アリスが学校に編入してきた瞬間だ。
アリスは低い身長、ピンクのカーディガン、華やかな金髪もあいまり、日本の教室の風景からはっきり浮いてしまっている。彼女の可愛さに嬌声をあげるクラスメートが、異物としてのアリスのポジションをいっそう浮き彫りにする。
作品世界内でのこうした反応は「日本では外国人目立つよねー」といったリアルな感覚だろう。一方テレビ越しの私はこのアリスがもたらした空気に、単なる外国人の物珍しさとは異なるものを感じていた。
アリスの纏う雰囲気は、たとえば同じく芳文社のヒットアニメである『ご注文はうさぎですか?』などの世界が持つ「ここではないどこか」の空気に近い。
まるで、現実にはないどこかステキな場所から来たような。
アリスはそんな「ここではないどこか」から迷い込んできたようであり、ファンタジーめいた存在に映る。

日常に非日常が流れこんできて、心なしフワフワとした雰囲気に教室が包まれたとき、OPが流れ始める。「問題なんか何もないよ」という力強い歌詞から始まる、明るくポップなメロディに乗せて、これからアリスと送るであろう新しい日々が描かれていく。
このOP映像ではカレンという今後のさらなる変化も示唆されている。しかし、彼女たちが5人揃った画に違和感はまったくない。もちろん金髪2人で色合いのバランスが取れたというのもあるのだろうが、教室のとき(OPの後流れる1話EDでの映像も含む)とは違い、ひとつの風景として5人はそこに成立している。

穏やかな日々、幸せな日常はすばらしい。
ではそんな日常に非日常――これまでなかったもの――が入りこんできたとき、今の日常はどうなってしまうのか?
本来ならその変化には期待と、同じくらいの大きな不安が入り混じるわけだが、無印1話を見てマイナスに転がるなんてまったく考えようもない。
もっとキラキラの日常になるのが、前もってOPで示されるからだ。
第1話OPは、いずれアリス・カレンを含めた5人の景色が「ここではないどこか」ではなく、「ここ」になるという未来を見せてくれる。
夢の中での幸せではなく、夢のような幸せに満ちた現実の日々に。

・『ハロー!!』1話雑感

『ハロー!!』1話は無印最終話と地続き。
高校2年に進級して新しいクラスメートとも仲良くなったアリスは、忍とクラスが別れた事実をきちんと受け容れられている。窓から吹き込んだ春風に外を見やり、桜を眺めるアリスの表情はとても穏やかだ。
一方で、5人の中でもっとも困った様子を見せるのは、環境に対応することに長けているはずのカレン。厳しめの態度で生徒と接する新しい担任・久世橋先生に対応できず、カレンはやみくもに怖がっている。
久世橋先生は、無印でこの世界に現れたアリスやカレンとはまた別の変化である。
先生は「ここではないどこか」の住民=問答無用のプラスファクターではない。周りにいてもおかしくなさそうなちょっと怖い感じの大人だ。多くの人は先生に対してマイナス……とまではいかなくとも、やや親しみ難い感じの第一印象を持つだろう。
しかし久世橋先生が生徒想いの良い先生であること、生徒を可愛く感じていること、本当は生徒ともっと親しく接したいことは殆ど間をおかずに示される。視聴者にも安心のストレスフリー設計。
お手洗いで笑顔を作ろうと悪戦苦闘する先生を見つけ、その意外な一面にカレンは親近感を抱く。何も不安がることはないと、叱責に対しても無謀果敢にアタックしていく。
結果として今回は怒られてしまうわけだが、そのさまはあくまでコミカルで、前半にあった不安な空気は完全に消え去っている。

このように『きんモザ』における環境の変化はすべてプラスのものとして日常に還元される。
問題なんか何もないのだ。ハローと踏み込む意志さえあれば、世界はそれに応えてくれる。
明日は今日より良い日でありますように。
そんな誰もが抱く祈りを『きんモザ』の世界は約束する。

続いてのBパートでは、今度は外部ではなく内部、5人に焦点が絞られる。世界の変化、広がりをきっちりと描いた上で、改めて5人の日常が描かれ始めている。
Bパートの話を一言でまとめるならば「忍の考えはいまいち読めないけど、裏表はない」。改めて安心感を与える作り。ここは安心安全、みんなの幸福を保証する『きんモザ』ワールドですよ、といったふう。
広がりを見せる世界の中で5人はますますお互いを知って、より深く結びついていく。少し切ないEDをバックに、5人がはしゃぎながら歩いていく並木道の先は輝く光に満ちている。続けてOP。この映像には無印OPにはいなかった穂花、猪熊弟妹、久世橋先生、忍母、穂乃花の友達が加わっている。無印OPと変わらず、いやそれ以上に、みんなどこまでも楽しげで、キラキラ輝いていて、圧倒的幸せ感が画面いっぱいに放出されている。
変わりゆく世界だからこそ、変わらないものも際立っている。
それはきっと何よりも美しく、尊く、善なるものだと思う。


・余談

世界のすべてが変わってしまって、物理的に一緒ではいられなくなってしまっても、それでもなおそのグループが「ずっと一緒」であるだろう確信。それを与えてくれる、信じさせてくれる作品が、私は好きでたまらない(『がくえんゆーとぴあ まなびストレート!』とか)。
『きんモザ』が今後、彼女たちの離別を描くかどうかはわからない。同じ大学に進むでもいいし、アリスはこのまま日本(大宮家?)に定住するかもしれない。くっついてようと思えばいくらでもくっついていられるだろう。
ただ、進級でのクラス分けは、いずれ訪れる決定的な変化に向けての1つの叩き台のようにも思える。

まあ気の早い話なので、今は広がっていくカラフルな日々を見つめていたい。

【総評】聖剣使いの禁呪詠唱<ワールドブレイク>が破壊したもの

アニメ『聖剣使いの禁呪詠唱<ワールドブレイク>』とはなんだったのか。


TVアニメ「聖剣使いの禁呪詠唱」”最強”の解体新書〈ターヘルアナトミア〉 - YouTube

2015年春、数多くの視聴者を熱狂と狂乱の渦に巻き込んだアニメ『聖剣使いの禁呪詠唱』(以下『禁呪詠唱』)は最終回までその勢いを落とすことなく、怒涛のラストスパートをもって終幕を迎えた。放送当初から「神クソアニメ」とまで揶揄された本作の評価は真っ二つに割れている。絶賛か酷評。酷評しつつ絶賛する人も多い。グラフにしたらきれいな二次関数になるだろう。
この一部での高評価を見て、絶賛する視聴者を「壊れた」ととなえる人が各所で散見されている。たしかにこの作品を手放しで褒めまくる私自身、明確に壊れた実感がある。この作品は間違いなく「クソアニメ」と呼ばれても仕方ないマイナス点が数多く見られるからだ。
にも関わらず、そのどれもがプラスだったかのように思えてしまう。

ここでは『禁呪詠唱』の持つ「笑い」の要素を中心に、本作を視聴することによって視聴者に何が起こり、どう感じるように仕上がっていくのかを、自身の体験をサンプルにして綴っていく。

・笑いとは
人はなぜ笑うのか。

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笑いは構図(シェーマ)のズレによって生じると考えられている。噛み砕いて言えば「自分の想像が間違っていたと気付いたときに笑う」。筋骨隆々のオカマキャラがいつまでも定番であり続ける理由がこれだ。人はその見た目と言動のギャップに笑う。他、たとえば武藤遊戯がカードゲームで命を賭けたとき、範馬刃牙がゴキブリを師匠と崇めたとき、緑間真太郎がオールコート3Pなどとのたまい始めたとき――自分の想像をはるかに飛び越えた言動を前に、人は笑う。

『禁呪詠唱』ではこのズレが日常・非日常(ギャグ・シリアス)パートを問わずあらゆる場面で発生する。

視聴者はアニメを見る際「本来こうあるべき映像・音声」を無意識に脳裏で描いている。ただ普通に歩いたり喋ったりするシーンから、スピーディーで息もつかせぬバトルまで、シーンの内容や種類は問わずにだ。過去観た映像や音楽の雰囲気、あるいは設定等から、視聴者はテレビ画面に映し出されるべきアニメを、自分でも気付かないうちに予測している。

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『禁呪詠唱』を形作る要素のうち、想像と現実のズレを感じられる部分をざっといくつか挙げてみる。宙空にひらがなで綴る魔法の呪文。妙にねばついてスライムじみたオーラ(プラーナ)。高速の腕振りダッシュ。てくてく歩いているようにしか見えない超高速戦闘。止め絵の怪物。ヤシの木。波。白背景。13の頭を持つ9頭の龍。etcetc……枚挙にいとまがない。

アニメーション(映像媒体)は情報のバリエーションに富んだメディアである。視覚と聴覚に訴えかける要素がきわめて多い。そして『禁呪詠唱』ではそれらの各要素があちこちでズレて軋みをあげる。良質なBGMや作中の説明、声優の迫真の演技が、無意識下の「本来こうあるべき映像」を補強するのだ。現実に提供される映像は作画班が力尽きたようなしょっぼいものから、想像を絶するぶっとんだものまで様々だが、これによりズレは増幅され、より破壊的な笑いがもたらされる。
特にクライマックスで流れるメインテーマに関しては稲垣監督も「アニメ人生屈指の名曲」と認める、非常に壮大かつ情熱的な素晴らしい曲である*1。これとシュールな映像が噛み合ったときにはたまらない。シナリオ的にも大きなカタルシスを達成する瞬間であるため、視聴者は言い知れないほどの多幸感を味わうことになる。

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アッパードラッグとはこのような感じなのだろうか?

・朗笑と嘲笑
笑いは、大まかに2種類に分けられる。 親愛的な陽性の笑い「朗笑」と、心理的な暴力性からくる陰性の笑い「嘲笑」である。ざっくり分ければ、人は作品がこちらの想像を上回ったときに朗笑し、下回ったときに嘲笑する
たっぷりと盛り込まれた作中のギャグによる笑いは朗笑、力ない戦闘シーンやロシア人-日本人間の言語問題をあっさり放棄する等の雑な展開による笑いは嘲笑に属するだろう。アリプロに似たOP*2も、人によっては嘲笑の対象にするのかもしれない。

とはいえ、もっとも嘲笑を浴びているのは基本的に作画部分である。これは制作会社に責任があるとする声が多い。本作を手掛けるディオメディアはこのクール、実に4作ものアニメをかけもちで制作している*3。割ける予算も人員もかなり限られた状況だろう。
本作の作画(というより動画)はしばしば厳しい状態に陥る。多少崩れても問題のないキャラデザを採用しているので人物はさほど気にならない。……さほど。
問題は戦闘だ。せっかくの見せ場において残念なアクションになることも多く、細かい動きの使い回しもしばしば。目の肥えた視聴者が多い昨今のアニメ界隈において、こういった低品質な部分を嘲られてしまうのは仕方のないところもあるだろう。

f:id:n_method:20150328171759j:plainでは、たびたび出てくる例の高速ダッシュ(光技・神足通)はどうだろうか?
早送りのコントめいた全力疾走。絵面からしてギャグだが、場面の雰囲気問わず用いられる、呪文詠唱と双璧をなす『禁呪』アクションの代名詞だ。これをどう感じるかは個人個人によって分かれるだろう。『禁呪詠唱』はピエロに似ている。
こういった、意図的に「まともさ」を崩したアニメーションが、本作では毎話必ず提供される。
1話、服だけ破れる攻撃。
2話、横スクロールアクション。
3話、スローモーション喫茶ボクシング。
4話、垂直跳び→成層圏での「綴るッ!」。
そして、「このアニメはネタ抜きで観ても結構面白いんじゃないか?」と多くの視聴者に気付かせた正統派水着ギャグ回・5話直後の、あの6話。

話数を重ね、何十回も笑い転げているうちに、視聴者は突き出される映像が想像を上回っているのか下回っているのかよくわからなくなってくる。くだらないのか面白いのか、ネタかガチかガチでネタか。朗笑と嘲笑はあやふやに溶け合い、視聴後には笑いがもたらす幸福感、プラスの感覚だけが残っている。1話観終えるごとにまたひとつ『禁呪詠唱』が好きになっている。
半クール分も過ぎた頃に第1話を観返してみると、初見時とはまるで異なる印象を覚えることに驚くはずだ。第1話には本作のエッセンスが凝縮されている。

こうして感受性をかき回され続けた結果、最終的に視聴者は、それこそ箸が転んでも笑えるような状態に調教されてしまう。何せ走っているだけで笑えるのが『禁呪詠唱』だ。あばたなのかえくぼなのかわけわからなくなっても仕方ない。だいたい、そういう画面作り•セリフ回しをしているほうが悪い!
こうなればもうどうしようもない。制作サイドのエネルギー的死が笑いに転化されるさまはちょっとしたエントロピーの凌駕である。魔法少女もびっくりだ。

「禁呪が面白くなったのではなく、我々がおかしくなったのではないか」

正気に返った誰かが叫ぶ。しかし、真に強い作品とは受け手の価値観を変革してしまうものだ。聖書だってそうだ。実際、アニメ『禁呪詠唱』ファン(とくに実況勢)の言動はどこか狂信者めいている。他の作品に触れているときから日常のふとした瞬間においても、ふいに思い出したり綴ったりしている。はたから見たらただの頭のおかしい人である。

話が逸れた。
つまり、本作『聖剣使いの禁呪詠唱』は二つの笑いを持ち、正統派コメディによる最強の朗笑と、戯画化されたクソさによる最強の嘲笑、両方を自在に使用することができる。

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・作品そのものの強度
笑いに関して長々と書き連ねておいて何だが、『禁呪詠唱』の魅力は決して笑いだけではない。それについても軽く触れておこう。

本作は原作小説1巻分を2話にまとめており、原作付きアニメとしてもかなりのハイペースで進行する。そのためカットされてしまう部分も多いが、反面、展開のスピードにおいては他のアニメの追随を許さない。また原作のストーリーライン自体もしっかりと構成されており、人間的な魅力にあふれる登場人物*4がぐいぐい物語を牽引していくので、上述した「笑い」の味付けを抜きにしても十分楽しめる骨子がある。 王道かつ質実剛健、『水戸黄門』『暴れん坊将軍』あたりに通じる、爽快感に満ちた勧善懲悪シナリオから感じられる面白さは、世に言う「まともに面白い作品」と何ら変わらない。
肉も骨も味付けも美味しい=面白いのがアニメ版『禁呪詠唱』といえるだろう*5

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視聴者は、圧倒的なカタルシスをもたらす主人公の決め台詞「思い…出した!」をはじめ、「綴るッ!」「ウィーアーザセイヴァーズ」「俺は俺から奪っていく奴を絶対に許さねえ」などの定型ネタがいつどのように飛び出すかを期待しつつ、畳んでは開きを繰り返す超スピーディな物語を観続けることとなる*6。その間にも矢継ぎ早に、間断なく笑いは供給され続ける。止まったら死ぬマグロじみた生き急ぎ具合だ。
きわめて密度の高い流れを追うことにより、視聴者の体感速度は恐ろしいまでに加速する。1話ごとの体感時間は人によっては10分を切るという。


たしかに『禁呪詠唱』は文句なしに笑える作品である。しかし、同時に熱くもなれるし、感動もできる。登場人物の可愛さ格好良さに悶えたり、彼らの生き様に憧れる人もいるだろう。
本作を単純にネタアニメと捉えてしまうのも、テンプレ学園異能バトルと切って捨ててしまうのも、等しく「もったいない!」と思う。あるいはそういった安直なレッテル貼り、バイアスさえも破壊し得るのがこの作品なのかもしれない。

『禁呪詠唱』は視聴者の世界を破壊する。感受性、時間感覚、評価基軸、価値観、常識ーー創作物と相対する際に私達が踏みしめるあらゆる足場は崩れ去り、丸裸になった意識が『禁呪詠唱』という名の奔流<ウロボロス>に放り出される。
自身の世界を壊されて湧き起こってくる感情は、笑いかもしれないし、恐怖かもしれない。もしくは絶対的な嫌悪か、はたまた神への信仰心か。
私は本作に対してプラスの感情しか湧かなくなるくらいワールドブレイクされてしまったが、それほどのパワーがこの作品にあることは間違いない。

原作のストックは1クール分以上ある。2期制作を強く望む。 

 

*1:コンプティーク2015年4月号のインタビューより。主人公・灰村諸葉が「思い…出した!」し、必殺技で敵を倒すときにしばしば用いられる曲「World Break -Main Theme-」のこと。

*2:なお、これは実際にALI PROJECTが楽曲を提供している。CDのカップリング曲はドライブ感ある熱い良曲(雰囲気としてはED曲「マグナ•イデア」に近い)なので、是非聴いてみてほしい

*3:特にビッグコンテンツである「艦隊これくしょん」のアニメに多くのリソースが費やされたのでは? という声も。

*4:個性的なヒロインズも大変に魅力的だが、主人公・灰村諸葉のキャラクターが特筆に値する。行動力、決断力、ユーモアといった人格面の高さに加えて、金銭面でのセコさや人並みの性欲といった、俗っぽく親しみを持てる一面があり、何より熱血漢である。「等身大の強い善人」という、往年の名作少年漫画を彷彿とさせる人物造型に成功している。

*5:無論、肉と骨と味付けに関しても、各要素が兼ね揃える「まともさ」と「まともでなさ」が前述した構図のズレを起こしている。これがよりいっそうの笑いをもたらす。

*6:定型ネタを捻ったり下地にした言葉での決着はカッコよく、そして面白い。ここで笑えてしまうのもまた、ズレによるものだろう。